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20.隣にいること9

* 「あ、歯磨き粉……」  夕食の買い物も、晴太郎の生活用品も全部買い揃えスーパーを出た帰りの車の中。買いわすれがあった、と信号待ちで思い出した。 「買い忘れか?」 「はい……すみませんが、薬局寄ってもいいですか?」 「うん、いいぞ」  車を走らせているとちょうど良いところにドラッグストアの看板が見えた。いつも行く店とは違う店だったが、忘れないうちに寄って行くことにした。 「すぐ戻るので、少し待っていてください」 「うん、わかったー」  どうせ買い物は歯磨き粉だけ。すぐに済むので、晴太郎には車の中で待っていてもらい、一人でドラッグストアの中へ行った。  行きつけの薬局とは違う店は、どこに何が置いてあるかわからない。  店内をうろうろしながら歯ブラシなどが置いてある場所を探す間、たまたま通った衛生用品コーナーで、ふと七海は足を止めた。  目に入ったのは、ゴムとローション。    ——いやいや、さすがに気が早過ぎるだろう……  今じゃない、と目に入ったそれらを素通りして、目当ての物を探しに行く。  ——いや、でも……もし、彼の方から誘ってきたら……?  そんなことない、なんて断言できない。彼の方から誘ってくれたときに、必要な物も何も準備してなくてできませんなんて、とても格好がつかない。  だからと言って、恋人になってすぐに手を出す野蛮な男だとも思われたくない。しかし、準備も出来ない奴だとも思われたくない。だが、拙僧のない奴だとも思われたくない……なんて言っていたらきりがない。  もちろん、やりたくて付き合ったわけではない。彼が嫌がるなら、一生しなくていいとさえ思っている。しかし、やりたくないわけではない。愛した相手に全てを曝け出す大切な行為だと思う。が、その行為が愛の全てではない、ということも七海はわかっている。  考えがまとまらず、欲望や理性がぐるぐると頭の中を巡っている。  ——いや待て。よく考えろ。まだ恋人になって1日目だぞ? さすがに…… 「紙袋に入れますか?」 「……お願いします」  ——買ってしまった……  レジ袋の中には、歯磨き粉と諸々が入って中身の見えない紙袋。  恋人になったばかりなのに。しかも、彼は今日ちょうど二十歳になったばかりだ。それなのに、どうしても期待せずにはいられない。  ずっしりと中身以上に重い袋を持って、七海は晴太郎の待つ車に戻った。

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