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21.わがまま1

 晴太郎の誕生日から2日が経った、30日の朝。  例の紙袋は開かれることなく、ベッドの脇に無造作に置かれている。  ふたりで家で過ごしていても、同じベッドに寝転がっていても、不思議と全くそのような雰囲気にならなかった。——まあ、こうなることはある程度予想できていたが。  別にどうしてもやりたいわけではないのだ。これで良いのだと自身に言い聞かせる。自分はもう良い歳の大人だが、清いお付き合いをしたって全く問題ないはずだ。じゃあ何で買ったんだと問われてしまうと、何も言えなくなってしまうが。  すやすやと隣で眠っている晴太郎を起こさないように、そっと起き上がる。  狭いシングルベッドに並んで寝る事にも慣れてきた。ベッドが狭いと、どうしてもくっ付きながら寝ないと落ちてしまうので、逆に良かったのかもしれない。ぴったりとくっ付いて、体温を分け合いながら眠ることが、こんなに心地良いなんて知らなかった。  朝と言っても、もう9時をまわっている。長期休暇は生活習慣が崩れやすい。なるべく早く起きようと思ってはいるのだが、なかなか実行できない。  まだぐっすりと寝ている彼の髪をさらさらと優しく撫でる。無防備な彼の寝顔に、ぽかぽかと胸が温かくなる。隣に愛しい人がいることが、こんなに幸せだったなんて。  こんな時間がずっと続けば良い。そう思っているが、それが叶わないということも理解している。いつかは分からないが、晴太郎は帰らなければならないのだ。  いつまでここにいられるのか、まだ聞いていなかった。聞きたくなかった。彼と一緒に過ごす時間が幸せで、まだこの幸せに浸っていたかった。帰る日を聞いてしまうと、どうしてもその後のことを考えてしまいそうで嫌だった。    さて、今日は一緒に何をして過ごそうか。どこかに出掛けようか、それとも家でのんびり過ごそうか。どちらにせよ朝食は必要だ。  少し心を躍らせながら、今日の予定を考える。いつの日からかすっかりルーティンになったスマートフォンでのニュースチェック。ニュースアプリを開いて、気になる物があればさらっと読む。いつもはその程度なのだが、今日は違った。  いつものようにトップ記事の見出しからさらっと目を通す。すると、1件気になる……というか、目に留まった記事の見出しがあった。 『中条HB御曹司が家出?! 音信不通から3日。  社長中条氏「無事でいてくれたらいい」  全国に目撃情報提供の呼びかけ』 「…………は?」  思わず声が漏れた。あまりに衝撃的な内容だったので、ゴシゴシと目を擦ってからもう一度みる。が、記事の見出しの文字は一字一句変わらない。

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