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1.きっかけは2

「ここは、以前は料亭があったんです」  七海の知りたかったことは、彼女が知っていた。  さすが不動産に携わる仕事をしているだけある。若いのに偉いな、と感心した。 「料亭だったんですね」 「はい。60年ほど続く料亭だったんですが、跡継ぎがいなくて続けられなくなってしまったらしくて……それで、土地だけ持っていても管理できないから、と私たちに売ってくださったんです」  料亭、と聞いて納得した。駅から近くて比較的静かなこの場所にあるのに相応しいと思った。 「マンションの広告を熱心に見ていたので、興味あるのかと思ったのですが……違ったみたいですね。すみません」 「いえ、そんな……気になっていたことが解決しましたし、お話出来てよかったです」  気になっていた元の建物は、三浦が教えてくれたおかげですっきり解決した。彼女が声を掛けてくれてよかったと思っているのは本当だ。  それに、実はマンションに全く興味がない訳ではなかった。 「展覧会、みたいなものはやっていますか?」 「は、はい! えっと……モデルルームなら、駅前に……」 「駅前ですか。気付かなかったな……」 「あの……よかったら、今から見に行ってみますか?」 「えっ、今から? いいんですか?」 「はい! 案内役が、新卒の私でいいなら、ですけど……」  住宅の展示会のようなものは、もっと敷居が高くて簡単に行けるものだとは思っていなかった。三浦があまりにも気軽に誘ったので、七海は少し驚いた。  ここで彼女に会ったのも何かの縁。せっかくなので、彼女に案内してもらおう。 「はい。よろしくお願いします」 *  その後、見学をしに行ったモデルルームの感想を一言で言うと「めちゃくちゃ良かった」。  今の家と比べて、全てが良く見えた。部屋の広さも、設備も。  特に良いと思ったのは、キッチンだ。三口ガスコンロに、両面焼きグリル、そしてディスポーザー付きの広いシンク。食洗機まで標準設備だと聞いた時は驚いた。料理をよくする七海にとって、嬉しいことばかりだ。  昔、晴太郎と一緒に暮らしていた時の部屋を思い出した。あの部屋も広いキッチンがあって、毎日のように料理をしていた。  今の家は単身者用なので広いキッチンはないので、それほど凝った料理はしないが、キッチンが広くなったら、以前のように凝った料理をするようになるのだろうか。  それに、大好きなあのパン屋もすぐ行けるようになる。晴太郎も気に入っているパン屋だ。好きな人と朝食に好きなものを食べる。なんて良い生活なのだろうか。  広い家で晴太郎と一緒に暮らす姿を想像して、いいなと思った。

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