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3.我慢できない5
七海と呼ばれることに不満があったわけではないが、下の名前を呼ばれることは素直に嬉しい。もう一度呼んで欲しい。
「あの、晴太郎様……い、今のもう一度、言ってくれませんか……?!」
「…………」
「……晴太郎様?」
返ってきたのは、気持ち良さそうな寝息だけ。
確かに眠そうにしているとは思ったが、こんなすぐに寝てしまうとは思っていなくて、七海は肩を落とした。
気持ち良さそうに眠っているし、無理をさせてしまった自覚もある。出来ればこのまま寝かせてやりたいが、晴太郎の中からとろりと出てきた白濁を見て七海はハッとした。彼をこのまま寝かせては大変なことになる。可哀想だが、起こして風呂に入れなければ。
「起きてください、晴太郎様」
「んぁ……? あれ、俺飛んでた?」
「少し寝てただけです。風呂、入りますよ。歩けますか?」
「風呂……? あぁー、そっか、生だった……面倒だなあ……七海、連れてってくれ」
ベッドの上で両手を広げるのは、晴太郎の『抱っこ』の合図。意識がはっきりした彼から下の名前で呼ばれることはなかったが、こうやって素直に甘えてくれるのが嬉しくて、自然と笑みが溢れる。
「はいはい……じっとしててくださいね」
「ん、わかった」
彼の身体に負担がかからないようにそっと抱き上げ、一緒にバスルームへ向かった。
成人男性にしては細身なその身体は、簡単に持ち上がることを七海は知っている。この家で今日のように晴太郎を風呂に運んだことは、数え切れないほどある。
もし引っ越すのであれば、この何気ないやりとりはあと数えるくらいしかできないのか。そう思うと少し寂しくなるが、それ以上に一緒に住むという約束が、七海の心を幸福で満たしてくれる。
「あ、七海」
「はい?」
「明日、不動産屋に連絡してくれるか? 七海が買おうとしてる家、俺も見に行きたい。できれば明日のうちに……早く、見に行きたい」
「……っ、はい! もちろんです!」
明日、朝一で連絡しよう。
今までも充分幸せだったが、同棲という夢のような話が、一気に現実味を帯びてきた。まだ買ってもいないというのに、あの家で一緒に暮らすことに期待で胸を膨らませてしまう。——ああ、楽しみだ、幸せだ。
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