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4.これから2
「話聞いた感じだと、七海は会社員だしローンは問題無さそうだな」
「七海さんお一人の名義にもできますし、七海と中条さんの共同名義にもできますよ」
「俺、会社員じゃなくて個人事業主みたいな感じだけど、大丈夫かな?」
「3年くらい安定した収入さえあれば、問題ないです」
「ふーん……なあ、これもし現金で買いたいって言ったら……」
「えっ、現金……?」
「すみません、三浦さん。何でもないです、気にしないでください! 中条くんも、変な冗談はやめてくださいね」
晴太郎は七海にマンションを買ってあげることをまだ諦めていなかったらしい。普通、20代の青年がキャッシュでマンションを買うなんて言わないのだ。話を遮られた晴太郎は不満そうに唇を尖らせていた。
「三浦さん、中条くんにも部屋を見せたいのですが、いいですか?」
「あっ、失礼しました! 中条さんはまだ見てませんでしたね。すぐご案内します!」
これ以上お金の話をすると、また晴太郎が変なことを言いそうだ。一旦話を逸らそうと、部屋の案内をしてもらうことにする。
「こちらがお部屋です」
「おおー……これ、部屋入って見てもいいのか?」
「はい、ドア開けて自由に見て大丈夫です」
晴太郎がもしこの部屋を気に入らなかったら、同棲の話はまたふりだしに戻ってしまう。実は少し心配していたが、彼の部屋を見て回る様子を見て、それは余計な心配だったということがすぐにわかった。
部屋をみる晴太郎はとても生き生きして、すごく楽しそうだった。
「なあ、三浦さん。このマンションって楽器置ける? ピアノなんだけど……」
「はい、下に何か敷いてもらえば、大丈夫ですよ」
「壁は防音のやつに出来る?」
「お金はかかってしまいますけど、オプションで出来ます」
「そうか……出来るなら、問題ないな!」
わくわくした様子の晴太郎を見て、七海も嬉しくなった。この部屋で晴太郎と暮らす想像をして、わくわくしないわけがない。晴太郎も気に入ってくれたよつなので、七海の心は決まった。
「七海さん、よかったですね。中条さん、前向きに考えてくれてるみたいです」
「はい。昨日、一緒に暮らそうと話をしてみたら、とても喜んでくれました」
「それはよかった!」
「三浦さんのおかげです。ありがとうございます」
「いいえ、私はそんな、何も……!」
実際、三浦に背中を押されなければ七海は晴太郎に同棲の話をしなかっただろう。今まで通り、彼の空いている日に家に呼んだり、彼の元へ行ったりを繰り返す生活になっていた。
だから七海は、きっかけをくれた彼女にとても感謝している。彼女が担当営業でよかったと思う。
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