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悪夢①

翌日。 軽く荷物をまとめた俺は外に出た。迎えにくるのは10時ごろと話していた。 今は9時52分。 あと少しで迎えにくるはず。 時計を見て、キョロキョロと辺りを見回す。 すると、明らかに場違いな車が現れた。 高級車だ。 リムジンだ。 初めて見た。 唖然としている俺の前にリムジンは止まった。 「迎えに来てやったぞ。」 赤い髪がトレードマークの男は悪魔三人衆の1人、財前 皐だ。 何様。 俺様。 財前様だ。 こいつが母さんの前に現れなくてよかった。母さんに心配かけさせるところだった。 「って、こんなところでリムジン乗り回すなよ!!」 「はっ、貧乏人が住む場所は狭くていけねぇ。」 「無視するなし何気に貶すなよ。」 「グダグダ言ってねぇで早く乗れ。」 お前が貶すからだろ! 心の中で怒鳴る。 こいつに何言っても意味ない気がするし。諦めて車に乗り込む。中はある意味想像通り。煌びやかで庶民には縁のない空間だった。 「荷物持ってきたのか?いらねぇだろ。」 「いるに決まってんだろ。着替えもあるし、勉強道具も必要だし。寧ろ最低限しか持ってきてねぇよ。」 「ああ?全部揃えてあんのにか?」 全部、揃えて…。 ああ、そうだった。 こいつら金持ちだった。 はぁと溜息をついていると、ほいっとグラスを渡された。高そうなグラスだ。 「なにこれ。俺、未成年だぞ。」 「酒じゃねぇよ。飲め。」 「変なもん入ってないよな。」 スンスンとグラスを近づけて匂いを嗅ぐ。 あれ?これって…。 「グレープ?」 「お子ちゃまにはまだワインは早いからな。」 「ああ、これなら俺も飲める…ってお前も同い年だろ。」 たくっ。 グラスを口元に持っていってジュースを飲み込む。ほぉ、これが世に言う高級ジュース。 味わい深い。 あれ?でもなんかポカポカしてきた。 「なぁ、これ、本当に酒じゃないよな?」 なんか凄くクラクラするんだが。 「ああ、アルコールは入ってねぇよ?」 じゃあなんでこんな急に眠気が…。 瞼が重い。 体が重い。 なんだこれ、眠い…。 「まぁ、睡眠薬は入れたけどな。」 財前が何かを言ってる。 聞こえない。 なんか、遠い。 「ほらっ、着くまでゆっくり眠っとくんだな。」 遠くでグラスが割れる音がした。 ああ、あれ、高そうなグラスだったのに…。 請求されたらどうしよ…。 どうし…よ…。

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