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寮⑥

湯煙が立ち篭る。まずはシャワーで一回汚れを落としてっと…。お湯に浸かった。 「はふぅ…。」 身体に染み渡る。足を好きなだけ伸ばせるし、なんなら泳げる。こんな広くて大きいお風呂を独り占めなんて贅沢だ。 でも、使う。 もう、盛大に使ってやる。 「歌歌っても誰にも気付かれない…。こんなに広かったら凄く響くんだろうなぁ。」 欲望に負けて、歌う。 「ここーにいーるよー。そばーにきーてよー。」 この前誰かが歌ってたうろ覚えな歌。響いて、いつもより自分の歌が上手く聞こえる。 「あーあー。」 「下手くそな歌が外まで聞こえてるけど、大丈夫?」 サビを歌い切った俺に誰かが声を掛けてきた。瞑っていた目を開けると、曽根の姿が。顔が赤く染まる。 「い、い、いつからここに…。」 「えー?だいぶ前かな?」 「言えよ!」 「いやいや、気持ち良さそうに歌ってたから遠慮してあげたんでしょ?」 「大きなお世話だ!」 曽根はガシガシと身体を洗うと、俺の横に座った。凄く、いやかなり居づらいんだが…。でも、こいつに遠慮して上がるのもなんだかなぁ。 「どうだった?」 「は?何が。」 「見て回ったんでしょ?」 「ああ…。」 ここの建物のこと。 「高級感溢れ過ぎて貧乏人の俺にはついていけなかったよ。」 「でも、気に入ったんだ。」 「まぁ、そりゃあ。飯も美味いし、こんな広い浴場もあるし。母さんを連れてきたいくらいだよ。」 「そっか。それなら良かった。」 「そう言えば、お前ら俺のこと調べたのか?あの部屋なんだよ。服は俺のサイズぴったりだし、本も俺が持ってる本とか気になってる本とか置いてあるし。まじでキモいぞ。」 先程から聞きたかったことを直接聞く。こういうのは変に考えて恐怖を抱くより、聞いた方が早い。まぁ、聞かなくても想像はつくけど…。 「キモいは酷いな。でも、結城君の情報の半分はお母様から聞いたことだよ。」 「は?」 お母様? って母さんのこと? なんで。 そんなタイミングいつあった。 確かにこいつは母さんに会ってはいるけどそんなこと聞いてなかった筈だし…。 「一回結城君がトイレに立ったときあったでしょ?その時、結城君の近況報告しますよ。って言ったら携帯番号教えて貰えたんだ。それで、挨拶と一緒に何が好きかとかも聞いたんだよ。」 いや、母さん…。 しかも意外とまともな方法で俺の情報聞き出してた。 ん? 待てよ。 半分はって言ってなかったか? 「おい、後の半分はなんだよ。」 「あーっと、それはまぁ、調べさせた的な?俺だけじゃないよ?生徒会み〜んな、独自で調べてるし。」 は? なんだそれ、怖い。 やっぱり聞かなければ良かったかも。 「仕方ないよ。みんな結城君のことが好きでしょうがないんだから。だからさ…。」 「へ?」 隣に座っていた曽根が目の前に立ちはだかる。絶妙に引き締まった身体に目が眩む。それが徐々に近づいてくるから、ぎゅっと目を瞑った。 耳元に息がかかる。 恐る恐る目を開けると同時に、曽根は息を吐いた。 「不用意に裸を見せちゃ駄目だよ。じゃないと…、襲われちゃうよ。」 耳元で甘い吐息がかかる。 チュッと耳先をキスされて、漸く何が起きたのか理解した。 固まっていた身体をなんとか動かして、曽根の身体を押し返す。 「今日は何もしないよ。約束を破ったら俺が排除されるしね。結城君に会えなくなるのは辛い。良かったね、結城君。」 そのまま、去っていった曽根の後ろ姿を見つめてから、俺は肩の力を抜いた。 なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ。 男が急に出してきた大人のセクシーな魅惑(フェロモン)に俺の息子は少しだけ反応した。 ただ、今すぐここから出て、曽根に鉢合わせるわけにもいかない。渋々俺は隣の冷水に浸かることを決めた。

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