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財前皐④
それは7年前のことーー
小学4年の夏。
財前という苗字ではなく、森田であったとき。
なんの気もなしに、いつもはいかない公園に遊びに行った。
ただ、夏休み最中の冒険。
よくある子供のお遊び。
そのたまたま辿り着いた公園で、あいつはいた。
南 結城。
一人でブランコに乗って遊んでいた。
「おいっ、何してんだ。」
「ん?だれ?」
「俺は北第二小の森田皐。お前こそ、誰だよ。」
「俺は北第五小の南結城。…遠くから来たんだ。」
「おうっ、俺は一人でなんでも出来るからな。」
鼻高々に言うと、けっと馬鹿にしたような顔をされた。
「なんだよ。」
「ふんっ、ちょっと遠い公園に来たからって威張るなよ。」
「なんだとぉ。1人で公園で遊んでるお前に言われたくない!!」
「お、俺は今友達を待ってんだよ。お前こそ1人じゃんか。」
「俺は1人で来たくて来たんだ。あっちに帰れば友達なんて何人もいるぞ。」
向かい合って、睨み合う。その後は、よく分からないウチに喧嘩になり、果てに殴り合いになった。蹴って殴って噛み付いて。そして、最後に2人揃って地面に倒れた。
「友達来ねーじゃん。」
俺が言う。
あいつは答えない。
「友達いねーのかよ。」
「い、いるし!ただ、今日はみんな忙しいってさ…。」
「友達待ってるのは嘘じゃん。」
「うるせぇ。お前だって、友達に断られて、1人でここまで来たんだろ。絶対そうだ。」
「んなわけないだろ。…なんで、1人なのに公園にいんだよ。」
「クソ親父に追い出されたんだよ。」
「なんだ、叱られただけかよ。だっせぇ。」
「ちげーよ…、ちげぇ…。」
今にも泣き出しそうな声。なんか、家庭の事情ってやつがあんのか。そういえば、こいつはじめっから傷だらけだったような。
「…俺ん家来るか?俺ん家は親父はいないけどさ、意外と金はあるんだぜ。」
「いないのか?父親。」
「ああ、母子家庭っつうやつ。でもさ、別に辛くもないぞ。母ちゃんは優しいし。」
「ふぅん、俺の家も早く出て行かないかな…。」
「それで?来るか?」
「ううん。俺が行ったら母さんが悲しむ。俺は母さんが好きだから、あの親父には負けたくないんだ。」
「なんだそれ。マザコンだな。」
「よく言われる。」
儚げにそういうあいつが気になって、その後何度もあいつがいる公園に通った。
あいつがいる時もあれば、いない時もある。
あいつの友達がいる時もあれば、いない時もある。
それでも、関係なくその公園に行き続けた。夏が終わる頃には、あいつと俺は紛れもなく友達になっていた。
「夏も終わりだ。」
「ああ。終わりだな。」
「お前、もう来ないのか?」
「ばーか。夏休みじゃなくても来れるし。俺を馬鹿にすんなよ。」
「じゃあ、はい。」
あいつは小指を出した。
俺もその小指に自分の小指を結びつける。
約束だ。
そうして終わった夏休みのあと、あいつは二度とあの公園に来ることはなかった。
あいつの友達に聞くと、家庭の事情で引っ越したという。
その時の絶望をきっとあいつは、結城は分かっちゃいない。
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