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早乙女鈴太郎②

ゆっくりと公園を周り、花壇で足を止めたユーキ君を見て、愛しさが増した。 僕とユーキ君は決して交わらない場所にいた筈だった。 金持ちと貧乏人。 その差は歴然で、生きていく場所も全く違う。他のみんなもそう。だけれど、僕とユーキ君は他の人よりさらに溝があった。 何故ってそれは、1年の初め。 入学当初に僕がユーキ君を虐めていたから。 本人は全く気にしていないようだけど。 初めは財君がちょっかいを出していた。貧乏人が気に食わないのかと思っていたけど、どうにもそんな感じではない。 どちらかと言えば、小さい子供が好きな子を虐める感じ。 それで面白がって僕もそのちょっかいを手伝った。でも、それはだんだん過激化する。 教科書を隠したり、貧乏人と罵ったり、机の上に落書きしたり。 大した理由はなかった。 そこにちょうどあったから虐めた。 それだけ。 でも、今思うと単純にユーキ君の虐めたときの顔が好きだったのかもしれない。 屈辱に塗れたその顔が。 強がってる顔が。 今も時々苛めてしまうのはそのせいかも。 ただ、その当時の僕にそんな意識は存在しない。そんな目で見るようになった要因はおそらく、あの時だ。 女の子の格好が好き。 言葉を変えれば、女装癖。 両親にも友達にも言ったことのない秘密。 それを同級生で貧乏人の南結城に見られた。 いつもならしない失態。 というか、こんな一般人が集まるようなところに同級生がいる筈がなかった。 ここには服を買いにくる店がある。 店に入るために女の子の格好をする。 そこで偶然貧乏人の同級生に出会う。 なんて不幸な。 それも、出会い方はナンパされている最中だった。あんなにも教室で馬鹿にしていたのに、これじゃあ僕の方が滑稽で笑い者だ。 「あっ、待たせた?ごめん、怒らないで。早く行こっ。」 それなのに、あいつは僕の腕を掴んでナンパから救い出してくれた。驚いて、思考が停止している僕に気を遣ってか、安物の缶コーヒーを渡してきた。 「まずっ…。」 「あっ、ごめん。飲めなかった?」 違う。こんな安もん飲める気がしないだけって言おうとしたけど、あたふたと慌てる南結城を見て、やめた。 「大変だったね。あそこら辺治安悪いから行かない方がいいよ。」 そこで、もしやと思った。 こいつ、僕に気付いてない? イラッとした。 モヤモヤして、頭に来た。 なんで、僕が分からないの。 「ねぇ、僕、男だよぉ。」 「えっ、嘘っ!!」 上から下までじっくり見られる。もし、これでキモいだの罵ったら次の日学校に来れなくしてやる。 「すごいな。男でも女の子の格好しても違和感ない人いるんだ。」 「はぁ?なにそれぇ?気持ち悪くないわけぇ?」 「なんでだよ。俺は人の趣味否定するような人間じゃない。それに、それにさ…、まぁ似合ってるし。あっ、罰ゲームとかだったりしたらごめん。」 なんだこいつ。気にするところ違うし。違うのに、馬鹿みたいだ。 「趣味だよぉ。僕、可愛いでしょ〜?だから、着てるだけぇ。」 「そっか。本当に似合ってる。俺もこんな可愛い彼女欲しいなぁ…。」 見るからに童貞。 顔赤らめてるし、きっも…。 ああ、でも、そうだ。 僕がなってあげよう。 だって、僕、可愛いから。 でも、なるのは彼女じゃなくて、彼氏かなぁ。 だって僕、ユーキ君のこと今とっても抱き潰してみたい。

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