51 / 136

新歓!!⑥

お疲れ様会。 なんて言葉を考えたのは誰だったか。 こんな庶民的な名前のくせして、立派なパーティーだ。ズラリと並んだ料理の数々。美味しそうだけどさ。去年と同じようなパーティー式に溜息が出る。ああ、去年の悪夢が…。 「今年はいいのか?持って帰らなくて。」 はっと鼻で笑った財前が俺を揶揄ってくる。 「今年はいいんだよ。帰っても母さんいないし!」 去年。パックに詰めてもいいかと問いかけた瞬間に悪魔三人衆は俺を笑い者にしただけでなく、いろんな人達に言い触らしやがったのだ。 まぁ、結局?シェフの人が「私の料理をそこまで評価してくれるなんて…。」と涙ながらに話して、大量にパックに詰めてくれたけど。 今年もあのシェフが作ったんだろうか。 去年は散々だったけど、今年は幾分楽しめそうだ。それに、なんか肉じゃがとか置いてるし。なんでだ。 「金持ちって意外と家庭の味が食べたくなるのか?」 「あ?ああ、それは早乙女が言ってただろ。庶民ごっこだって。何個か庶民の食べ物頼んで置いたんだろ。まっ、庶民ごっこの割に使ってる肉は庶民には到底手に入らない肉だけどな。」 なんだかとっても白けた。 まぁ、いいや。 目の前にある肉じゃがを手元の皿に置き、パクリと食べた。 「んー、やっぱり俺は母さんの肉じゃがの方が美味く感じるな。」 「そうだな。」 いつのまにか俺の皿から肉じゃがを強奪していた財前が言った。 「おいっ、俺の皿から取るなよ。って、お前は肉じゃが食った事あんのかよ。」 「あるに決まってんだろ。俺をなんだと思ってんだ。」 金持ちのペーペー坊ちゃんだろ。 ゴンっと頭を叩かれた。 「いってぇ…。」 「てめぇ、なんか余計なこと考えてただろ。」 「だからって殴らなくてもいいだろ。たくっ。」 暴力男め。 頭を撫でる。 「でも、お前が肉じゃが食ってんのなんか違和感。」 「っせぇな。」 「皐は小学生までは一般家庭で育ったから、食事に関しては意外と家庭的なものを好んでいるんだよ。」 「あっ、会長。」 先程まで生徒達に囲まれていたはずの会長がニコニコと俺の後ろで笑っていた。そして、驚きの発言を投下した。 「財前って、昔からの金持ちじゃないのか!?あれだけ人を貧乏人だって揶揄ってたくせに。」 「お前は普通の庶民より貧乏だろーが。」 否定しないけど!なんか悔しいっ!! 「でも何で金持ちになったんだ?親の事業が上手く行った?あれ、でも財前って昔からある有名な企業だよな。」 「本妻が妊娠しなくて引き取られただけだ。」 なんだそのドロドロな話は。重い、重いのに言い慣れてる感が半端ない。 「皐が愛人の子だって事は表向きは公になっていないけど、僕たちの世界では有名だからね。まぁ、周りからいろいろと言われてきただろうね。」 金持ちぶって偉そうにしてるけど、案外大変な思いしてるんだな。 …そりゃ、そうだよな。 金持ちだって人間だしな。 「ふんっ、俺を馬鹿にする奴なんて一瞬で黙らしてやったけどな。あんなペーペーの奴らに何言われたって気になんねぇよ。それよか、お前、料理できんだろ。」 「えっ、料理?まぁ、できるけど。」 「なら久々に一般人の飯が食いてえ。作れ。」 「んなっ、急な。」 まあ、でも、財前だっていろいろあったわけで…。きっと久しく家庭の味を食べられてないんだろう。 「部屋に来ればいつだって食わせてやるよ。」 笑って頷けば、ガシガシと頭を撫でられた。 「たまには不味い飯でも食っとかねぇとな。」 「おいっ、それどういう意味だよ。」 前言撤回。 やっぱりこいつはなかなかに性格が悪い。 同じ人間でもこいつら悪どい奴らだった。 「皐、天邪鬼もいいけど、たまには素直にならないと嫌われてしまうよ。ご飯に関しては僕も食べたいな、結城。」 「会長に食べさせられるようなものじゃ…。」 「ふふっ、僕だって一般人のご飯を食べてみたいんだよ。」 財前とは違う方面での金持ちアピール。無自覚なのがまた悩ましいところ。 「あっ、そうそう。結城、明日1日空いているかい?」 「えっ、あっはい。明日は今日の振替休日だから、1日ゆっくりしとこうと思ってましたけど。」 「そう…。詳しくは明日話すけれど、お父上のことで相談がしたいことがある。少し早いけど10時に僕の部屋に来てくれないかな。」 父さんのこと…。なにか重要なことがあったのか。 「この場では話せるような内容じゃないけど、そんな悪い話でもないから気負わないで。今は楽しもう。」 そんなこと言われても、気になって仕方がない。結局、その後何かを食べる事はなかった。

ともだちにシェアしよう!