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柊楓②
「結城、大丈夫?」
「ん…。」
俺は何を期待していたんだ。
あの父が俺を愛するわけがないだろう。
だって、言ってたじゃないか。
誰だって。
お前は誰だって。
実の息子に普通そんなこと聞くか?
なんで、わかんねぇんだ。
普通わかるだろ。
わかって当然だろ。
だって、だって俺はあんたの子供だろ。
家族だろ。
なんで、なんで家に帰ってこないんだ。
借金なんてどうでもいい。
また、苦しい生活でもいいから。
だから、だから、気づいて欲しかった。
「結城。」
身体に温かい体温が触れた。
ギュッと抱きしめられている。
「会長…?」
「反応がないから心配したよ。」
「俺、いつのまに戻ってきて…。」
「車の中でずっと思い悩んでいるようだった。着いてからもずっとボーッとしていたよ。」
「そっか、ごめん。会長、俺、今1人になりたいんだ。お礼は今度するから、今日は帰って。」
明日になったらこの気持ちもなくなる。
きっとまた忘れられる。
でも今はダメだ。
ダメだ。
「結城、結城、結城。泣いていいよ。」
「えっ…。」
「今、ここには結城のお母様はいない。気にせず泣き叫んでもいいんだ。思いの丈全部吐いたっていいんだ。結城、君はお父上と家族になりたかったんだね。」
そうだ。
家族だ。
戻れると思ったんだ。
家族に。
「う、うぅゔぅぅぅ。ゔっぐっ、はぁっ、はぁ、ひっ。ぁあぁぁ。」
「そう、泣いて良いんだ。泣いて。」
「なんで、なんで気付かない。気づかない。俺はすぐにわかったのに。父さんだってわかったのに。
借金塗れだって良かった。良かったんだ。家族3人で暮らせれば、なんだって良かったんだ。殴るつもりなんてなかった。父さんを説得して改心させて、また一緒に暮らしたかっただけなんだ。
きっと俺が会いに行けば変わると思ったんだ。ドラマは起きるって思ったんだ。なのに、なのに、結局あいつは気付かない。最後の最後に見たあの瞬間にだって、俺じゃなく会長を見てた。
金を持つ会長を見てた。
なんで、なんで、なんで!
俺を見ろよ。
大きくなっただろ。
成長したんだぞ。
どうして何も、何も何も言ってくれないんだよ…。」
「君は期待してたんだね。お父上に大きくなったな、ごめんな、これからは一緒に暮らそうって言って欲しかったんだね。殴りたいだなんて口実に過ぎなかった。」
「そうだよ。母さんが幸せにって言っておきながら、本当は俺はまた3人で暮らしたかったんだ。きっと、きっと母さんは気付いてたんだ。俺が父親を恋しがってるのを。だから離婚しなかったんだ。離婚したら唯一の繋がりが切れてしまうから。」
「結城…。結城、それでも君は頑張ったよ。お母様に気を遣って、一人でだって生きてきた。偉いね。凄いね。もう、気を張らなくていいんだよ。」
なんで、なんでこんな時に、俺が一番欲している言葉をかけて来るんだ。ずっとずっと待ち望んだ言葉を。
「泣いていい。ずっとずっと抱き締めていてあげるから。」
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