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柊楓③

南結城は理想的な人間だった。 出会いはどこだったか。 菊臣の話しを聞く限り、彼と出会ったのは入学式の日。だけど、僕がきちんと彼を認識したのは夏が終わる前。 前生徒会長が突然会長の職を降りると言った頃だった。当時副会長を務めていた僕がそのまま会長職に就く。 いずれ来るはずだった未来が少し早くなっただけ。文句はないし、文句を告げる人間もいなかった。だけど、自分でも気付かないうちに疲労は溜まっていた。 将来トップに立つ人間としてあってはならないこと。それでも尚、仕事が舞い込む中、僕を光の世界に連れて行ってくれたのが結城だった。 「あの…大丈夫ですか?」 「なぜ?僕は特に何ともないけど。」 「いや、顔色が悪いですよ。」 生徒会室から職員室へ向かう途中、下級生から声を掛けられた。貧相な様子から見るに、特待生枠で入ってきた生徒だろう。 「僕はいつも通りだよ。他のみんなも特に何も言ってこない。君の思い違いだ。」 「そうですか?でも、俺の母さんと同じ顔色してる。俺、見慣れてるから分かります。体調悪いんじゃないんですか?」 確かにここ最近調子が良いとは言えない。前会長の抜けた穴は思っていた以上に大きかった。それに加え、新一年生をまだ生徒会に引き入れていない。人数も揃っていない状況で、少しの無茶は仕方のないこと。 「僕は大丈夫だよ。問題ない。」 「…そういうのあまり良くないですよ。周りに頼った方がいいです。じゃないと倒れてしまいます。」 「僕は人に頼れる立場にいないんだよ。それに、一人でだってやっていける。」 「一人でやっていけるのは、周りの人が影で支えてるからです。俺、あんたのことよく知らないからあんまり偉そうなこと言ったら失礼だと思いますけど…。」 拙い、下手な敬語で必死に話す彼。今まで見たことないタイプだ。そもそも僕に進言してくる人なんて誰一人としていなかった。それを、まぁ、僕の心配だけでここまで必死になるとは。 「いいよ。君の言っていることは正しい。頼れる人間を作るというのはすぐには難しい。だから今日は仕事を休んでゆっくりしようと思う。ただ、保健室で休むのは問題がある。君、人があまり来ない場所を知っているかい?」 「はい!」 勢いよく頷くこの子は悪意のない陽だまりのような子だ。 久々に見た純粋な笑顔に、ああこれが欲しいと思った。 自分の懐の中に入れて、大事に大事に育てたいと思った。 彼は、特待生だろう。 彼を僕専属秘書にするのはどうだろう。 給料が高いとあれば断らない筈だ。 ああ、でも、それだと汚い大人に汚されてしまいそうだ。 どうするのが正解だろう。

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