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柊楓④
「こことかどうですか?意外と人来ないし…。」
現実世界に戻る。
ここは裏庭か。
手入れはされているが、何も面白味のない場所で、確かに人は来ないだろう。
「俺、よくここでお昼ご飯食べるんです。春の時期とかポカポカしてて気持ちいいんですよ。」
「座る場所がないよ?」
「それはほら、ここに座って。」
太い木の根に座って、ポンポンと横を叩く。地面にそのまま座ることなんて今までなかった。僕は少し戸惑いながらもその横に座った。
「ほら、目瞑ると鳥の声とか葉っぱが揺れる音とか聞こえるんです。」
言われるままに目を瞑った。ああ、確かに色とりどりの音色が眠気を促してくる。とても気持ちがいい。
「とても、いい場所だね。」
「はい!ありがとうございます。」
その笑顔を護りたい。
あわよくばその笑顔を独り占めしたい。
僕だけのものにしてみたい…。
ばっと目を開けると、既に太陽は傾いていた。あれから1時間も経っている。ここ最近で一番頭が冴えている気がする。隣で眠る彼のおかげだろうか。
「君は、不思議だ。1日でこんなにも僕を魅了して、小悪魔か何かか。いや、それにしてはあまりにも無垢で純粋すぎるか。」
「楓様…。」
後ろで声が聞こえた。大方家からの迎えだろう。この子を1人にするのは忍びない。
「高松、僕はもう少しだけ生徒会の仕事がある。待っている間に彼を家まで連れ帰ってあげて。」
「はっ、かしこまりました。」
僕は彼を護りたいと思った。
その時の感情はただの保護欲だったのかもしれない。
だけど、幾度も幾度も彼は僕を気遣ってくれた。彼の優しさに愛しいという気持ちを覚えてしまった僕は、いつしかこの感情が愛なのだと知った。
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