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離婚①
久々の休日。
…いや、休日はいくらでもあったけど。
とにかく久々の実家。あの高級マンションのような寮のせいで、うちが小さく見える。ああ、俺もあいつらに汚染されているかも。
「母さん!」
「あらっ、結城。早かったわね。」
「うん。母さんが心配だったから。」
それにしても、随分と顔色が良くなったものだ。今日で離婚も成立する。もう少しで俺も母さんもあの父親から解放されるんだ。
「酒田さんは30分に来るみたいだから、結城も準備してらっしゃい。」
「はーい。」
酒田さんは会長の叔父で、弁護士をしている人。会うのは初めてだけど、母さん曰く、凄く親切で優しい人らしい。することもなくそわそわしていると、家のチャイムが鳴った。
「酒田さんかもしれないから出てくれるー?」
「はーい。」
パタパタとドアを開く。眼鏡を掛けスーツを着たイケおじがそこにいた。
「君が結城くんかな?はじめまして。楓の叔父の酒田照嘉です。」
「あっ、初めまして。南結城です。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。力になれるよう尽力します。」
「結城〜?酒田さんに早く上がってもらいなさーい。」
母さんの声にはっとする。
どうぞどうぞと中に入ってもらう。
弁護士なんて言うからもっとキツくて怖そうな人かと思ってた…。
会長に似て優しそうな人。
「洋子さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ宜しくお願い致します。」
「今日の予定ですが、13時には現地に向かうということで。」
「現地って?話し合いの場所はここじゃないのか?」
「…結城くん。君はお父様を自分の家に招き入れたいかい?」
考える間もなく首を横に振った。
「話し合いの場所は確保しているから安心して下さい。」
「でもあの父親が素直に来ますかね。」
「そこも安心して下さい。知人に頼んで来て頂けるようお願いしていますので。」
なんだろ。
すごく有難いしすごく頼りになるけど、その知人ってのがヤケに怖い…。
会長の叔父だからだろうか。
「それでね、結城。結城は今日は家でお留守番してて欲しいの。」
「は?なんで。」
「私達家族の話ではあるけど、やっぱり子供に聞かせる話でもないでしょ。」
「いやいや、そんなのって…。」
「結城…。お母さんとお父さんは今からお別れするのよ。貴方がいたら、お父さんに一発殴れないじゃない。」
ん?なんか不穏な言葉が…。
「それにね、結城。お母さん、結城にはこの家で待っていて欲しいの。家に帰ってきて結城がいてくれたら安心する。」
「母さん…。分かった。分かったよ。でも、あんまり無理しないで。」
「ええ。分かってる。それじゃあ、そろそろ準備して出掛けないとね。」
母さんはしゃきしゃきと準備を始める。
父さんの私物をまとめたバックも背負い、スーツを着た母さんは俺にウインクをして出て行った。
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