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媚薬の酒①
10階にBARがあるのはご存知の通りだ。
え?
覚えてないって?
まぁあるんだよ。
そのBARに今日は来ていた。
小さなグラスを片手に優雅に飲むオレンジジュース。
うん、美味しい。
「なに似合わねぇことしてんだよ。」
「あっ、財前。」
「なんだこれ、ただのオレンジジュースじゃねぇか。」
「うっせ、まだ未成年だぃ。」
なぜいつもは来ることのないBARに来たかといえば、それは昨日の夜に見たドラマが影響だ。
BARで酒を飲む主人公がカッコよくて、ああなりたい、あれしてみたいなんてそんな感じ。ええ、ちょっと馬鹿っぽいのは自覚している。
だけど、どうせならその大人の雰囲気を味わってみたくて、大人な男になってみたくて、意を決して中に入った。
結論から言えば、この通り。
勇気もなくオレンジジュースだ。
「バイオレットフィズ」
「はい、かしこまりました。」
「なんだそれ。」
「お子様にはまだ早いか。」
「は?なんだよ。」
すみれ色のカクテルをそれこそ優雅に飲む姿は板についている。なんか、負けた気分。
「お、俺も同じの!」
「はっ、無理無理。」
「いいんだよ。」
前に出されたその飲み物に恐る恐る手をつける。匂いを嗅いでから一口ちびりと飲んだ。
「にがっ…。」
「ふんっ、お子様。」
「うっせぇ。」
このまま残すのも嫌でちびちびと飲み込む。大人の味とはいえ、普通に無理。独特の苦味とジュースでは味わえない香り。不味い。しかもなんだかポカポカして、頭も少し痛くなってきた。
「むぅ…。」
「おいっ、そろそろやめ…。」
「おや?なんで結城がいるんだい?」
ーーー
未成年の飲酒は固く禁じられています。
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