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帰省と報告①
夏休み突入。
ギンギラの空を眺めながら、久々に家に帰る。母さんも有給を取ってくれたようで、俺の帰りを待っていると言っていた。
「にしても、暑いな…。」
汗を拭って、歩く。
「おや?結城君じゃないかい?」
突然、品のいい車が目の前に止まり、窓が開いた。てっきり生徒会の連中かと思ったが、違った。
酒田さんだ。
会長の叔父で弁護士の。
「お久しぶりです…酒田さん。」
「そんな睨みつけないでおくれよ。ほら、家に帰るんだろう?乗っていかないか?今日は暑いし、アイスでも買ってあげるよ。」
「子供扱いしないで下さい。」
「楓から聞いているよ。バーゲンナッツが好きなんだろ?」
「…。」
手口が会長にそっくりだ。さすが叔父。そして、俺もその手口に引っ掛かるあたり単純すぎる。カップ状のアイスを口に入れた。
「そう言えば、なんで酒田さんはあんなところにいたんです?」
「ああ、君の家に向かってる途中だったんだよ。」
「え?なんで。」
「聞いてないのかい?洋子さんに招待されたんだけど。初めは家族水入らずだろうからと断ったんだけどね。洋子さんがせっかくだからって誘ってくれて…。その様子だと聞いてないみたいだね。」
母さん、頼むよ…。
「申し訳ないから、ケーキを買ってきたよ。あとでみんなで食べよう。」
箱にかかれるお店の名前は見たこともない店名だ。勿論、地元に寄り添って営業してるケーキ屋さんの筈がない。
「母さんは普通のショートケーキが好きなんだ。大きな苺ののったやつ。」
「ふふ、分かってるよ。」
分かってるよじゃねーし。
肘掛けに体重をかけ、窓の外を見つめた。
家に着くと、母さんはエプロンを巻いたまま玄関で出迎えてくれた。
「あら、結城。照嘉さんと一緒に来たのね。」
第一声にそれだ。
いつのまにか名前呼びになって、親しそうにしている母さんと酒田さん。
酒田さんの方を見ると、ニコニコと笑っていて、なんか、してやったり感を感じる。
「母さん、酒田さんが来るなんて聞いてなかったんだけど。」
「あら?そうだったかしら。」
はぁ…。深い溜息をついて座り慣れた座布団に腰を下ろす。
「今日は結城の好きなカレーよ。」
まぁ、久々なのにむくれるのも子供っぽいよな。
「母さん、何かすることある?」
「ふふ、なら、お皿取ってくれる?」
母さんの手伝いをしながら、寮での出来事を話した。家族水入らず。そんな穏やかな時間が過ぎていった。
久々の母さんの手料理。
母さんのカレーは豚を使ったシンプルなカレーだけど、とても美味しい。
3人で机を囲んでカレーを食べ始める。
たわいない話が続くなか、酒田さんが突然思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、結城君。来週社交界があるんだけど、君も来るかい?」
「え…なんで俺が?」
「洋子さんをパートナーに選んだことを紹介するからね、息子の君も一緒に来て欲しいんだ。」
おい、今しれっと恐ろしいこと言わなかったか…。
ばっと母さんの方を見ると少し頬を赤く染めていた。愕然とその様子を見つめる。
「結城、あのね。お母さん照嘉さんと一緒になりたいと思ってるの。…でもね、結城が嫌なら。」
「嫌じゃないっ!母さんが、母さんがさ、幸せになれるんだったらいいんだ。いつも俺を優先してくれてた。だから幸せになってほしいよ。」
本心だった。本当に本当に幸せになってほしい。だって、ここまで俺を育ててくれて、俺のために苦しんできた。もう幸せになっていいはずなんだ。
母さんが穏やかに笑ったのを見て、ホッと息をつく。ただ、急に小っ恥ずかしくなってカレーを掻き込んだ。
「ご馳走様!ちょっと散歩行ってくる。」
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かれこれ1ヶ月ぶりの更新で申し訳ありません。言い訳は省きますが、これからまた投稿すると思いますので、お付き合いのほど宜しくお願い致します。
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