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社交界④
「もう、こんな時間だ。終わっちゃったかな…?」
「大丈夫だよ、みんな分かってるから。」
分かってるからって、何を…?
ホテルの一室を出た俺たちはパーティーの式場へ戻る。もう22時を回っていた。
「楓…、遅かったわね。」
式場前。
そこにはやけに威圧感のある人々が集まっていた。1番先頭にいるのは年老いたお爺ちゃん。その横で俺たちに声をかけたのが、会長のお母さんだった。
「そうですか?それは申し訳ありません。」
「良い。柊家の当主として許そう。」
お爺ちゃん、今柊家当主って…。じゃあ、この人が、今日のお誕生日会の主役で柊家御当主…。
「君が楓を射止めたのか。」
決して射止めた訳じゃないけど。
「お、お初にお目にかかります。南結城です。」
上から下までじっくり見られる。さっきと同じシチュエーション。
「楓…、好きにやりなさい。」
「え…。」
「はい。」
会長はさも当然だと言うように頷いた。俺は御当主様を見つめる。
「なんで、その、認めるんですか?俺、男だし、金もないし。」
「わしはそんなモノで見てはおらん。それで見るのは三流の馬鹿だけだ。」
当主の目の先には会長のお父さんがいた。汗を滲ませ、顔を逸らす会長のお父さんは具合が悪そうだ。
「お父様、この人を虐めるのはやめて頂けますか?」
「お前の伴侶だ。わしは何も言わん。」
会長のお父さんを庇ったのは、会長のお母さんで。当たり前のように思える光景だが、どこか異質だ。
「結城さん、先程はこの人が失礼なことを言いましたわ。私達一族はあなたとあなたのお母様を認めます。まぁ、反対したところで抗うだけでしょうけど。」
「はぁ…。」
「あら、あまり嬉しそうではありませんね。まだ、楓はあなたの心を射止めていないようですね。ふふっ、楓、早く捕まえなさい。一度狙った獲物は奪ってでも捕らえる。仕事でも、恋愛でも、それが私たち一族なのですから。」
ゾクリと背筋に冷たいものが走った。
狂気を感じる。
ふと、目に入った会長の父はさらに顔色が悪くなっていた。
その口からは『逃げろ。』とそう言っている。
そこで初めて俺は、会長のお父さんが悪気があって俺を貶したわけではないのだと知った。そして、ここの会場を訪れてからずっと感じていた違和感。自分自身の普段感じない身分の差を感じた理由。
それらの意味をやっと気付いた。
いや、気づいた時には遅かった。
「お母様、あまり結城を怖がらせないで下さい。」
ぽんっと肩を叩かれる。
会長の優しい言葉にふっと肩の力が降りた。
「彼は魅力的な人ですから、ライバルは沢山い
るのです。僕は、結城の感情を優先させたい。だから、無用な手出しはしないで下さい。」
「…っ、そう。それは仕方のないことね。」
「では、彼は疲れていますので、今日はここで失礼します。」
「し、失礼します。」
無意識に掴んでいた会長の裾。それに気付いた会長は嬉しそうに笑って、俺の頭を撫でた。
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