102 / 136

社交界⑤

「なんだよ、あれ…。」 「柊家の血を引くものは皆一様に一途なんだよ。」 一途で片付けられるものじゃない。あそこにいた全ての人間が俺には恐ろしい何かに見えた。一方的に押し付けてくる愛。そして執着。 「会長のお父さんは…。」 「父は母の被害者ってとこかな。父と母は大学で出会ったそうだけど、母は父を愛してしまってね。当時恋人のいた父を無理矢理奪って結婚まで漕ぎ着けたんだ。 父は今でも母のことを愛していないと思うよ。ただ、怖くて逆らえない。祖父も同じようなものだから、父の味方は一族の中には誰もいない状態なんだ。 …言いたい事は分かるよ。僕だって結城が思っていることと同じことを考えている。でもね、結城。僕はそれでも違うよ。結城には選ばせてあげる。」 会長の異様な愛情表現。 好きな人を共有するという可笑しな現状を選んだ会長の心理が漸く少しだけ分かった。会長は母親や祖父のようにはなりたくないのだ。 相手を縛りつけ、無理矢理自分のものにしようとする。 ただ、皮肉なことにやっている事は変わらない。おそらく、無意識で、会長自身は気づいていないんじゃないか。そして、会長は誰よりも…。 「会長は…、いやなんでもない。」 「…、疲れただろう。今日は帰ろう。」 「うん。」 誰よりも…、臆病者…。

ともだちにシェアしよう!