108 / 136
思い出のあの日①
夏。
真夏。
太陽がギラギラと照り、蝉がこれまでかと言うほど鳴き叫ぶ。
夏。
汗が滴り落ちる中、俺は昔住んでいた街まで来ていた。あまりいい思い出のない街だ。
父と離れて暮らす前の辛い記憶が残る。ただ、ここに敢えて来たのは森田を思い出したからだ。意図せずとはいえ、約束を違えてしまった。一言謝ろうと思い来たのはいいが、まぁ会えるわけがなかった。
「昔の友達に会えばなんか手掛かりが見つかるかと思ったんだけどなぁ…。」
忘れたい記憶をそのままにしていたのが悪かった。きっと引っ越してすぐに探していたら、まだ手掛かりが見つかったかもしれないのに…。
懐かしの公園のベンチに腰掛ける。公園はあまり変わらない。森田に話しかけられたブランコもそのままだ。
「あいつ、どこ行ったんだろ。ってかあちぃ。」
「当たり前だろ。」
急に首元がヒヤッとして、後ろを振り返る。そこには、ペットボトルを片手に持つ財前の姿があった。
「って、財前!なんでここに。」
「通り掛かった。」
「いやいや、そんな通りがかるような場所でもないだろ。」
「うるせぇ。それより、んなとこに座ってっと死ぬぞ。」
まぁ、確かに。
熱中症になってもおかしくない暑さだ。
「お前はなんでこんなとこにいんだ。」
それはこっちのセリフだ。俺の考えていることは察している癖に自分は答えようとしない。さっさと答えろと睨んでくる。
ため息をついて、まぁ隠すことでもないかと告げた。
「…いや、昔の友達に会いに来たんだ。約束破っちゃったから、謝りにさ。」
「ふーん。会えたのか?」
「ううん。昔の友達…森田っていうんだけど、そいつのこと知ってそうな友達に当たってみたけど手掛かりなし。流石にもう…会えないのかなって思ってた。」
「会いたいのか、そいつに。」
「当たり前だろ。会いたくなかったらこんな所にこねぇよ。」
「なんで。」
「んー、お前見てたらさ、なんか思い出しちゃってさ。あいつ俺様でさ、自分勝手な奴なんだけど、でも凄いいい奴だった。だから、あの後この公園でまた会おうって約束破ったのすげぇ後悔してて。やっぱり意地でも探して謝ろうってさ。」
「自分勝手な奴。」
そうだ、自分勝手だ。だけど、俺たちはあの日約束した。森田も俺も何かを抱えていた。それを互いに告げ合うことはなかったけど。だからあの日の約束はただの約束じゃなかった。また遊ぼうって、言って、それで…。
「俺は、父親があんなんになってすごい辛かった。だけど、この公園で森田と一緒にいると、全部忘れられた。たぶん、森田もそうで、だからあの日の約束は、夏が終わってもまた何もないただの子供として遊ぼうってそういう約束だったんだ。でも、俺はその約束を破った。
今更だって分かってる。本当に今更だ。約束した次の年に一回探しにきたんだ。だけど、森田はもう居なかった。でもその時だって俺はこんなふうに誰かに森田の居場所を聞いたりしなかった。俺はさ、この街の出来事忘れたかったんだ。だから逢えなくて、あの日はホッとした。」
「お前は謝りたいのか?そいつに。」
「謝りたいよ。それと、嫌なこと沢山あるけど、昔より強くなったんだってこと言いたい。んで、聴くんだ。お前は今どうだって。ごめんな、俺、自分のことばっかりで、お前の話は聴いてやったことなかったよなって。強がってたけど、お前もきっと辛かったんだろって。なぁ、森田?」
俺は眉を寄せ、財前に向かって問いかけた。
ともだちにシェアしよう!