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思い出のあの日②
「ごめんな、森田。」
「気付いてたのかよ。」
「いや、今気付いた。ごめん。」
気付いたのは本当についさっき。なぜ気付いたのかと問われれば、たぶん財前がここにいたから。俺の後をついて来たと言えばまぁそれまでなんだけど。そんな様子はないし、それに…、
やっぱり森田を成長させたらこうなるし。
「お前、さっきから俺を馬鹿にしてんだろ。」
「してねーって。」
「ふんっ。」
「ごめん、約束のことも、お前のこと気づかなかったことも。」
「俺は一目で分かった。」
「俺だってお前の苗字が森田のままなら気付いたし。それに、まさか高校が一緒だなんて思わないだろ…。お前、俺様度が増してるし。」
「やっぱ馬鹿にしてんだろ。」
「してないしてないって。」
馬鹿にはしてないけど、ちょっとおかしいな。まさか、俺様のまま育ってるなんてさ。
「なぁ、聴いてもいいか?」
財前に目線を合わせる。こくりと頷いた財前を見てから、俺は空を見上げた。
「どうして森田から財前に…?」
「言ったろ。俺が愛人の息子だって。親父が本妻との間に子供ができなくて、俺を引き取ったんだよ。」
「ああ、そっか。」
「んな同情されることでもねーよ。ある程度覚悟してたしな。誰かさんが突然いなくなってからもうどうでも良くなったし。」
「わ、悪かったよ。」
「別にいい。結果的にお前を手に入れる為には必要な行為だったからな。」
手に入れるって…。
財前は、森田だと気付かなかった俺を恨んでちょっかい出してたんじゃないのか?
「おい、勘違いすんなよ。俺は好きでもなんでもねぇ奴に手なんざださねーよ。」
「え…。」
「好きだっつってんだよ。」
え…。
「いや、えっと、俺…。」
突然の告白についていけてない。
まさか告白されるなんて。
揶揄ってる?いや、それはないだろう。だってこんなに真剣な顔だ。副会長と同じ、何かを決意した顔。
「返事はいらねぇから。お前はただ俺に堕ちてくるだけだ。だから、気なんか使うんじゃねーぞ。」
彼なりの優しさ。
それはひしひしと伝わってきた。
「財前…。」
「その財前ってのもやめろ。前からお前にそう呼ばれるのは違和感あったんだよ。」
「じゃあ、森田?」
「皐。」
「いいのか?」
「いいも何もない。さっさとそう呼べ。」
「おう。」
…皐か。なんか今更で恥ずかしいな。
ん、でも、そういえば…。
「皐だって、俺の名前まともに呼んだことねーじゃん。」
「結城。これでいいだろ?」
顔に熱がこもる。
ああ、なんでこんな照れてんだ!俺!くそぅ…。
立ち上がって、皐月の持っていたペットボトルの水を飲み干す。
「ふぅ…。あついな。」
「そろそろ帰んぞ。目的は達したろ。」
「あー、はいはい。気が狂うよ、まったく。なぁ、皐。約束破ってごめんな。でもな、一言言わせてくれ。この街はあまりいい思い出はないけど、皐と遊んだことだけは確かにいい思い出になったんだぜ。」
「あっそうかよ。」
そっぽを向いた皐に笑った。
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