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思い出のあの日④
ふわふわする。温かい手が頭を撫でてる。
「んぅ…。」
目が覚め、その手の主を見る。
「さつき…?」
「んだよ。」
「意外と手あったかいな。」
「寝惚けてねぇで、起きろ。」
皐に蹴られ、ベッドから落ちる。
ふげっと変な声が出た。
「おいっ!ふざけんな。」
「ばーか。おら、帰んぞ。」
なんだいつもの皐だ。
俺様ツンデレやろう。
「いだっ!」
「なんか失礼なこと考えてただろ。」
「…。」
翌日ーー
「皐、これ、頼まれてたやつ。」
「ああ。そこ置いとけ。」
生徒会室。まともに仕事をする時間。皐に頼まれていた資料を渡す。すると、生徒会メンバーが一斉にこちらを振り向いた。
「な、なんだよ。」
「結城、皐といつのまにそんな仲良くなったんだい?」
会長に問われ、ふんと納得する。ああそうか。こいつら俺と皐が昔知り合いだったの知らなかったのか。
「俺と皐、実は昔友達で遊んでたんだよ。」
「そんなこと知ってるよぉ〜!」
「え?」
なんで知ってんだよ。
「そんなことよりぃ、下の名前!いつのまにぃ〜。」
「いつのまにって言われても、つい最近で。って別にそんなことどうだっていいだろ。」
「むっ!僕も呼ばれた〜い。」
呼ばれた〜いって。
「鈴太郎?なんか、太郎って感じじゃないよな。」
「んー、まぁ、確かにぃ?じゃあ鈴ちゃんって呼んで。」
「誰がちゃん付けするかよ。鈴…でいいだろ。」
「うんうん。あっでも…。」
早乙女もとい鈴が耳元でそっと呟く。
「ヤッてるときは鈴太郎でいいよ。」
一気に背筋が伸びる。ゾワゾワって…。
「誰が呼ぶか!」
「鈴太郎。あまり結城で遊んだらだめだよ。」
早乙女を止めてくれたのは会長だった。ホッと息を吐く。だが、会長という男は早乙女なんかより面倒くさいことを忘れていた。
「結城、僕の名前は楓だよ。」
「あっ、はい。知ってるけど。」
「楓。」
「会長、あの…。」
「かえで。」
「楓…さん。」
「うん。なぁに?」
めんどくせぇ。
初めから下の名前で呼んでって素直に言えばいいのに。
「って、なんだよ。もう!別に下の名前だろうがなんだろうがどうでもいいだろ!」
「えー、そんなことないよぉ。下の名前ってなんだか特別って感じするしぃ〜。」
特別って…。今までと大差ないだろ。
「南。」
ジッと副会長にまで見つめられる。
これは、つまり、そういう事だろう。
「俺もお前を結城と呼んでもいいだろうか。」
副会長は照れたように笑った。
いや、そっちかよ!
「もう、いいよ!好きに呼んでいいし、俺も好きに呼ぶから!菊臣先輩もいいだろ?それで!」
「ああ。」
ゔっ…。
そんな嬉しそうにされると困る。
なんだか小っ恥ずかしくなり、俺は逃げるようにその場を後にした。
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