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夏合宿⑤
俺はぷかぷかと浮き輪に乗ったまま波に揺られていた。
つい数時間前までは海で皐と菊臣と3人で遊んでいた。菊臣はサメの浮き輪の取手部分を掴み、結城を乗せたまま泳いで見せた。何もせず進んでいく浮き輪に最初は怖かったが、慣れてしまえば楽しくて仕方がなかった。
その後も海を満喫したが、14時を回ると流石に疲れ果てた。しかし、皐と菊臣は2人はまだ体力が有り余っているようで、昼ご飯を食べ終わるなり、競争すると海の方に向かっていったしまった。残された俺は浮き輪の上で1人波に揺られることとなった。
「空ってこんなに青いんだなぁ…。」
夏の空。
太陽の光を浴びる日光浴も楽しそうだ。
「なぁに、言ってるのぉ?結城君。」
いきなり顔を覗かしてきた鈴に驚き、体勢を崩して海に投げ出された。しょっぱい海水が口に入る。ぺっと水を吐いて、唾液で口を洗う。
「うえ…。」
「あはは!ユーキ君ださぁい!」
「うるせぇ!ってかおいっ、お前なんつう格好してんだよ!」
女性用のビキニ姿の鈴に顔を逸らす。男らしさを感じないのは、下がスカートでアレが隠れているからだろうか。
不思議なことに上半身には膨らみがあって、違和感がない。どこから突っ込めばいいのか分からず、そもそもジッと見るのが悪い気がして目を逸らした。
「ユーキ君、照れてるのぉ?」
「て、照れてない!」
「じゃあ、目を合わせてみてよ。ほら、ここが気になるの?」
鈴が俺の手を掴み、胸元に近づける。ふにっとした瞬間驚き、手を払う。
「ふふ、かわいい〜。さすが童貞〜。」
「うるせぇ!ってかその膨らみなんだよ。」
「ああ、これ?パットだよ。ほら。」
自分の胸元からクッションのようなものを取り出し、俺に見せた。チラリと見えた肌にサッと目線を逸らす。そんな俺に鈴は大笑いした。
「結城君、どーてー。」
「う、るせぇ!ってか、さてはお前、それに着替えるために午前中来なかったんだろ。」
「え〜、違うよぉ。この水着忘れちゃってて〜、届けさせてただけ。」
「忘れてたって…、え、それだけを運ばせたのか。」
当たり前でしょ?なんて顔をする。
はっきり言ってドン引きした。
ここまで何時間かかると思ってんだ。そして、楓さんの島なんだから、もちろん定期便なんてものは存在しない。水着一枚だけかは知らないが、とにかくそれだけで船を出させるとは…。
「じゃあ、ユーキ君。僕とデートしよっか!」
「はっ?デート?」
「こんな可愛い僕とデートできるなんてユーキ君は贅沢だねぇ。」
どこからその自信が出てくるのか。
いや、その見た目か。
誰が見ても鈴は可愛いと言われるだろう。
鈴は俺の手を取り、引っ張る。俺は海から出て、砂浜に置いたビーチサンダルを履いた。
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