122 / 136

夏合宿⑥

「これ!綺麗じゃない?」 鈴が持つ貝殻を見つめた。 ピンク色の可愛らしい貝殻だ。 「本当だ。これ、母さんへのお土産にいいかも。」 「マザコン。」 「うるせぇ。」 鈴と同じように屈んで貝殻を探す。欠けている貝殻が多い中、形の残った可愛い貝殻を見つけるのは大変だった。 「あっ、これ、いいな。」 「ほんとだー、綺麗だねぇ。」 鈴が髪を耳にかける。 その仕草にどきりとする。 落ち着け、あれはズラだ。 「じゃあ、何個か見つけてテラリウムにしてみるー?」 「テラリウムってガラスに苔とか観葉植物とか入れて育てるやつじゃないのか?」 「うん、だから、あくまで飾りってイメージになるかなぁ。一つあっても目を引かれるし、ただの貝殻貰ってもねぇ…。」 確かに貝殻を貰っても困るだけだ。いくつか貝殻を拾い、近くにいた使用人に預けた。 「ねぇ、ユーキ君。」 「ん?なんだっ…てわっ!」 鈴は俺の腕を引き、カシャリと写真を撮った。 「おいっ!」 「ふふっ…。ユーキ君との2ショットだね。」 「勝手に撮るなよ。」 「いいじゃんいいじゃん。わっ、でもブサイクゥ…。」 「殴るぞお前!撮るならちゃんと撮れよ。」 「ふふっユーキ君ツンデレぇ?怒ってるけど撮っていいんだねぇ。そういうところ好きだよ。ほら、こっち見て。初海記念だよ!」 スマホの方に目を向ける。 その時、ふにっと…ふにっと…した柔らかい何かに触れた。 つい目線が下に逸れた。 俺の腕に当たっているのは、おっ…。 いや、しっかりするんだ。 男に膨らみは存在しない。 あれはパットだ! 「ユーキ君、ドーテーだね〜。」 「おまっ、絶対狙ってやってんだろ。」 楽しそうに笑い、鈴は俺の腕を偽物の胸へと押しつけた。 「やめろ…。」 「触りたいでしょ?」 「触りたくなんて…。」 「いいよ。こっち来て。」 鈴が俺の腕に胸を押し付けながら歩き出した。 ここで言い訳を一つ。こいつらが言うように俺は童貞、彼女もいたことがない。男に抱かれる日々だが、まだ俺の中のオスは残っているわけだ。 そして、可愛いビキニ姿の美少女(仮)に迫られたらどうだろうか。鼻の下もムスコの方も伸びて仕方ないのではないか。 まぁ、つまり誘惑に負けた。

ともだちにシェアしよう!