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夏合宿⑧
夜。
肉の焼ける匂いに釣られ、辿り着いたのはバーベキュー会場だった。
「それじゃあ、漸くみんな集まれたことだし、乾杯でもしようか。」
配られたグラスの中にはシャンパンが。勿論ノンアルコールだ。他の奴のグラスの中は知ったことではない。
「もうすぐ夏休みも終わる。夏休みが終われば、学園祭はすぐだ。そして、学園祭が終われば今度は新一年生が生徒会に招かれる。そういう意味でも今期より忙しくなるだろう。だけど、まぁ今は今期の疲れを癒すとしよう。グラスを前に。…乾杯!」
シャンパンを飲み、肉を食らう。
うーん、美味い。
「結城君、お肉食い過ぎ。」
柾斗が呆れたようにため息をついた。もぐもぐと口に肉を詰めているせいで言葉が出ない。
「野菜も食え。」
隣で菊臣先輩がピーマンと人参を俺の皿に置いた。好き嫌いはしないから別にいいけど。肉をごくんと飲んでピーマンを噛み締める。
「そういえば、ユーキ君。今回は仕方なかったけど、パスポートはちゃんと作らなきゃだめだよぉ?」
パイナップルを食べる鈴に指摘される。なんで、もうパイナップル食べてんだこいつ。俺、フルーツは最後にゆっくり食べたい派。ついでに酢豚はパイナップル入れない派。
「なんで、パスポート必要なんだ?」
「そりゃ修学旅行は海外に行くからに決まってるだろ。行き先は複数あるが、選択肢の中に日本は含まれてねーぞ。」
当たり前のように肉を食う皐は、これまた当たり前のように修学旅行先を述べた。金持ちめ…じゃなかった。
「いや、修学旅行いかねーよ?」
「えっ!行かないの?」
「当たり前だろ。金ないし、修学旅行は自費だろ?」
普通に国内旅行でも難しいのに海外に行くなんてもっての外だ。
「結城、君には父親が出来たはずだろう?僕の叔父は海外に君を行かせられないほど金に困ってはいないよ?」
金に困るどころか有り余るほど持ち合わせているのくらい俺でもわかる。でも、なんかまだ家族とかそういうのじゃないし、頼むのもなんだかなって思うわけだ。
「結城、もし頼みにくいなら僕が修学旅行費を支払ってもいい。でも、叔父は君に頼ってもらうのを待っていると思うよ。それに、君の母君も君には学生生活を謳歌して欲しいんじゃないかな?」
「楓さん…。うん、頼んでみる。あとで、電話するよ。」
「そうしてみるといい。」
頭を撫でられ、恥ずかしくなってそっぽを向く。
肉を掴む。
とろとろの肉を口に頬張り、ジュースで流した。
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