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夏合宿⑪

「おはよう、朝。」 窓を開けたら開放的な世界が広がっていた。目の前には海。背伸びをしてからめいいっぱい息を吸い込んだ。さて、今日も遊ぶぞー!るんるんと階段を降りる。 「おはようございます。南様。朝ご飯をご用意致しております。どうぞ、お席の方へ。」 使用人のおじいさんがにこやかに案内してくれる。広い机のわりに、そこにいたのは柾斗1人だけだった。 「おはよう、結城君。」 「おはよ。みんなは?」 「ああ、楓君は朝から仕事。菊臣君は朝のトレーニングに行ってる。鈴太郎君と皐君は就寝中。あの2人は起こさないとなかなか目を覚まさないし。」 やれやれと言った具合に肩を上げた。鈴なら想像つくけど、皐が朝に弱いのは意外だった。 「でも結城君は健康第一人間って感じだから、まぁ朝早いだろうなって予想してて良かったよ。」 「なんだよ、健康第一人間って。」 「まぁまぁ、それより、昨日面白い場所を見つけたんだ。良かったら、ご飯の後行ってみない?」 「面白い場所ってなんだよ。」 「それは内緒。」 あやしい…。非常にあやしい…。 あまりのあやしさに流石に拒否しようとした。それに気付いた柾斗は苦笑いを浮かべた。 「結城君、ここは楓君の持ち物だよ?あやしい場所があると思う?」 「たしかに…。」 考えた末、着いていくことに決めた。 まぁ、結局のところ好奇心が勝っただけの話である。 柾斗が案内してくれた場所は海とは反対側。 屋敷から10分歩いた茂みの先。 小さな洞窟だった。 「うわっ、ここに入んの?」 「そうそう。え?なに?結城君怖いの?」 「こ、怖いわけないだろ!」 ニヤニヤ笑う柾斗を見て、嵌められたと思った。これはホラー映画のときと同じ状況…。それでも、一度頷いたからには突き進むしかない。洞窟は暗く、柾斗の持つ懐中電灯だけが唯一の光だった。ぴちょんと首元に水が落ちる。 「ヒッ!」 柾斗の腕にしがみつく。バサバサと何かが飛んでいく音が聞こえた。 「な、なぁ、ここ、熊とか居着いてないよな?」 「さぁ?」 「さぁって!」 「冗談だよ。楓君家の所有物だよ?人間に害な生き物がいると思う?」 た、確かに…。 謎の安心感にホッと息をつく。 「まぁ、生き物でなかったら知らないけど。」 「え…。」 「恋人にこっぴどく振られた使用人がこの付近で自殺したとか…。」 ゾワゾワと背筋が凍る。 落ちる水音。 消えた懐中電灯。 背後から謎の気配。 「まっ、冗談だけど。」 口をぱくぱく開いて、柾斗の腕を叩いた。 「冗談でも言うな!」 「結城君は怖がりだなぁ…。さてと、それより結城君。」 「なんだよ。」 「結城君さ…トイレ行きたいんじゃない?」

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