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夏合宿⑰
「たっまやーーーーー!」
バーーーン!
夜空に浮かぶ大輪の花。いくつもの花火が夜空に打ち上がっていく。夏合宿の最終日の夜。毎年花火で合宿が終わるらしい。
「俺、こんなすごい花火はじめて!」
いいのだろうか。こんな花火。テレビ中継されててもおかしくない迫力だぞ。心臓に響く感じがたまらない。
「結城、気に入ったか?」
「あっ、菊臣先輩。はい、あれ、すごい。」
「花火は毎年恒例の生徒会行事だ。本来なら学園で打ち上げるが、去年の花火はなくなったからな。今年は合宿所で盛大に打ち上げることになったんだ。」
「去年はなかったんですか?」
「お前も知っているだろう。昨年の生徒会長は難ありの人だった。」
「あー。」
恥ずかしながら、俺はあまり去年の生徒会長の顔を覚えていない。俺が生徒会に一切興味を示していなかったのもそうだが、単純に元会長が表舞台に立つことが少なかったのが大きい。
俺が覚えているのは、当時の副会長である楓さんがやつれ顔で仕事をしていたことだけ。
そんな俺でも元会長がやばかったことは知っている。生徒会で一番忙しい学園祭の準備がそろそろというところで会長の職を降りた。ただそれだけなら御家の関係上仕方がないと言えたかもしれない。だが、元会長は割とマジで酷い人で学園祭の準備期間に入った生徒会の邪魔をして回ったという。
「5日間かけて作った看板を破壊したとか、文化祭前日に勝手にゲリラライブを開催したとか、あとは…乱行パーティーを開いたとか…。そんな嘘か本当か分からない噂は多いですよね。」
「いや、噂ではなくすべて事実だ。あの人は本気で人が嫌がることに快感を覚えていた。生徒会長はすでにこの時期には辞めていたが、引き継ぎもなく仕事の邪魔もする。噂など、その事実の一部に過ぎない。去年のことは思い出したくないほど、厄介毎に苛まれていた。」
「だから、毎年恒例の花火も、去年はしなかったんですね。」
「いや、それもあるが、あの人は花火を学園に向かって打ち上げる可能性があったからな。少しでも可能性を潰しておきたかった。」
可哀想に…としか言いようがない。
そして前生徒会長は本当にヤバい奴だったんだな…。俺、今年から生徒会でマジで良かった…。
「こ、今年は無事に文化祭、終わるといいですね。」
「だといいが…。すまない、つまらん話をした。今は花火を楽しむとしよう。」
打ち上げ花火。
空に咲き、空で散る花。最後の大玉が散った後、どこか胸騒ぎを覚えた。
風呂から上がり、ホカホカの身体でベッドに着く。
今日で合宿も終わり。
楽しかったけど、疲れた。
まぁ、そりゃそうだよな。
だって…ん?あれ?
俺、海で泳いで、飯食って、ヤッて、寝て、欲求に忠実に過ごしてただけじゃね?
あ、明日から勉強しなきゃ。
後期の予習をしながら帰ろう。
じゃあ、早く寝ないとな…。
うとうとしながら目を瞑った。
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