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1・不幸な僕と君のしあわせ-3
「……で、彼氏いるの?」
腰を折られた下世話を再開すると、紅蓮はぶは、と笑い、白い煙がぶありと広がった。
「聞くのか?」
「聞かないでほしいのか? 聞かないでほしいなら聞かないけど、別に腫れ物にされたいんじゃないんだろ。そうじゃなかったら、こんなこと君は打ち明けない」
きっと普通に接してほしいだろう。
正反対だとしても、秘密があることすら知らなかったとしても。十年以上も友人やってきたんだから、こいつの考えることくらい、ちょっとは分かっているつもりだ。
大きな背中を丸め、紅蓮は照れくさそうに頬を掻いた。
「冬弥のそういうとこ、いいよな」
「で、いるの?」
「そんなに気になるか? 俺に彼氏がいるかどうか」
「よく考えたら気にならなかった」
「まあいないんだけどさ」
これだけ引っ張っていないのかよ。茶化しついでに訊いてみる。
「ちなみに、僕は?」
「ん?」
「僕が、趣味かどうか」
ビールの回ったやや赤い顔で、クハッと紅蓮は笑い飛ばした。
「そういう冬弥はどうなんだよ?」
「……っ、待って、ホッケの小骨刺さった」
「おいおい」
「んぐっ……エッホッ」
「あっはは、お前……」
*
居酒屋を出ると雨が降っていた。
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