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2・ルームシェア-1
昔っからそうなのだが、桃鉄とか、麻雀とか、運がデカいゲームは大体紅蓮の勝ちだった。逆にぷよぷよなんかは技量がものを言うので僕の方がちょっと強い。技量と運要素の絡むポケモンバトルで五分くらい。マリオパーティは、ミニゲームだけ見れば僕の圧勝なのに、最後までプレイするとなぜか紅蓮の勝ちに終わる。
はじまったルームシェア生活は、素直に楽しい日々だった。紅蓮の家にはSwitchがあり、ゲームキューブがあり64があり、PS2もあるし4もある。ソフトのほうも遊ぶのが追い付かないほどのラインナップだ。無数に降り注ぐホームランバッドで吹っ飛ばしあいもするし、協力してモンスターを狩りに出かけることもある。友人の家に泊まり込みでゲームに興じる特別な高揚が、ずっと続いている感じ。夜が来るのが、家に帰るのが、毎日楽しみになっていた。
「お前パチンコとか競馬とかしないの? すごい儲けそう」
ボロ負けしたドンジャラを片付けつつ問いかけると、煙草を吸おうとベランダに向かっていた大きな背中が振り向く。脱いだ服は脱ぎっぱなし、食べたら食器は出しっぱなし、戸を開けたまま小便をして飯を食いながら屁をこく紅蓮が僕に気を遣うのは、煙草を吸うときくらいのものだった。
「どういう意味だよ」
「だって、強いじゃん、運ゲー」
「そうか?」
がらりと窓を開ける。ただでさえエアコンの利きの悪い室内に、生ぬるい残暑の夜風が吹き込んでくる。にぎやかな虫の声。十年以上前に発売された軽くて安っぽいドンジャラの駒の音、並んだ二本の缶チューハイ。
網戸を閉め、振り向いてへらと笑う、少し汗ばんだ友人の顔。
「あんまり意識したことなかったな」
「運ゲーで君に勝ったことほとんどないよ」
「んなこたぁないだろう。ドンジャラだって三回勝ったが一回負けたぞ」
「一回だろ」
「一回だって、勝ちは勝ちじゃないか」
「勝者はいいよな、余裕があって」
隣に響くくらいの笑い声をベランダで響かせている。網戸越しの暗がりにいる友人の顔を、ライターの火が赤々と照らす。
この笑顔だ。この笑顔を見るたんび、まず顔の作りが違うんだよな、と思うのだ。
ポケモンに特性というシステムがあって、例えば『いかく』という特性のポケモンなら場に出るだけで相手の攻撃力を下げる。バトルのときはかなり重要になってくる要素なのだけど、これはポケモンが生まれ持つものなのでそう易々と変えられない。紅蓮の笑っている顔はまさに、特性『てんのめぐみ』って感じだ。ラッキーな効果が起こりやすくなる、ポケモン界では凶悪な特性。ちなみに僕の特性は『のろわれボディ』で、ついでにキングボンビーがついている。
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