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2・ルームシェア-2

「冬弥はさ、考えすぎなんだよなあ、昔っから」  笑ってる。昔っから。そうだよ、本当にそうだ。僕たちの幸不幸は、生まれ持った顔つきにすらよく現れている。  子供の頃からの友人ではあったけれど、何かと正反対な二人だった。紅蓮は運動が得意で僕は勉強が得意,紅蓮は大食らいで僕は食が細い。気が合ったのが不思議なくらい紅蓮は人気者で、僕は地味で日陰者。  一緒に暮らした経験なんてもちろん無い。自分で言うのもなんだが、僕は多少神経質のきらいがあって、例えば枕が変わると寝られないし、物音ひとつでふと目が覚めてしまうタイプ。ルームシェアを持ちかけてくれたのは本当にありがたかったけれど、うまくやっていけるのか不安はあった。四六時中他人の城の中ってだけで気を遣って疲れ果てそうなのに、まして紅蓮はドのつく大雑把だ。 「君が考えなさすぎなだけだよ」  紅蓮の城にトランクを引いて上がった日、僕は、言葉を失った――何って、家の汚さに。  ごみ屋敷ってほどじゃない。けれど、泥棒が入ったのかな、と思うくらいには散らかっていた。脱ぎっぱなしの服、開けっぱなしの棚、食いっぱなしの弁当殻……たばこ臭いと悪いと思ってなあと言う彼が用法用量を守らず撒きまくったリセッシュの匂いが充満していた。リセッシュを買ってきたと思しきマツモトキヨシのビニル袋は、もちろんその辺に転がしてあった。  これまでだって、こいつの家に遊びにきたことは何度もあった。だから部屋が汚いことくらい覚悟もできていたつもり。ただ、驚いたのは、僕を同居人として迎え入れる初日のそのときになってさえ、部屋を片付けようとすらしない、その見上げたおおらかさで。  ――狭い部屋で悪いな。  お客様ではなく居候として迎え入れた僕に対して、ちょっと照れながら紅蓮が出した指示は、  ――まあ、好きにしてくれ。  これだけだった。僕がぽかんとしていると、紅蓮もぽかんとして、ああ、と了解して一言付け加えた。  ――トランクはそのへんに置いとけ。  言われて置いた部屋の隅に、僕のトランクは未だにある。荷物を片付ける場所が与えられていないからだ。多分、荷物を片付ける場所を与える、という発想が、紅蓮にはない。対する僕には引き出しの一角を貸しておくれよと言える程度の社会性もない。荷は最小限にとどめたので片付ける場所もいらないし、必要もないし、不便もないけど。 「まあ冬弥からしちゃ、俺は何の悩みも無いように見えるだろうさ」 「あるの?」 「無い」 「だろうな」 「こらこら」  大口開けて笑ってる。大ぶりだが意外と整った顔だ。特に目が綺麗だ。長い睫毛にふちどられた大きな両目はくりくりとよく動いて、きっと人に好かれるんだろう。

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