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2・ルームシェア-4

「俺にはもうとまってるからな」  赤い火を柔く明滅させるその横顔が、妙に遠く、大人びて見える。  大人びた顔って言うのは、こう、ちょっと諦めたような顔だ。 「……え?」 「あ、テントウムシ!」  言って、突然視界から消えた。そしてすぐ戻ってきた。  捕獲した虫をてのひらにくるんで大事そうに持ってくる。この時期のテントウムシなんて珍しくもなんともないのに、わざわざ見せにくるんだから子供みたいだ。でもきっと紅蓮も本当は興味もなくて、僕が興味があると思っているから、こうやって話のネタに見せにきてくれる。僕が生き物が好きなのを、子供の頃からの付き合いだから、紅蓮はよく知っている。 「テントウムシって、幸運を運んでくれるんだろ」 「迷信だよ」 「きっと明日はいいことがあるぞ」  ホラかわいい、赤と黒じゃないけどな、と開いて見せられた手のひらを見て。  す。と、腹の奥が、冷えるような感覚を覚えた。 「紅蓮。これは、」  ――テントウムシダマシだよ。  咄嗟に出かけた声が、言葉が、喉につかえて出ていかない。 「ナニテントウって言うんだ? こいつ」 「……ニジュウヤホシテントウ」 「二十八個も星があるのか! めっちゃツイてるな、これは」  小さな斑のたくさんある、艶のない橙色の甲の虫は、紅蓮の手のひらの窄まりの中に、じっ、と身を縮めている。息を殺しているかのように。

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