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3・聖母の鳥-6

(僕は何をしているんだろう)  鍋の仕込みを手早く終わらせて、気付けば駅前に立っていた。 (どうして僕はこんなことを……)  家から駅まで徒歩十五分。紅蓮がどの電車で帰ってくるかは分からない。しかも駅前にはコンビニがあって傘を買える。更に僕の傘はこの間盗られてしまったばかりなので、一本しか傘を持ってきていない。つまり、どっちにしろ、紅蓮は傘を買う羽目になる。  総括すると、僕が紅蓮を駅まで迎えに来る意味は、これっぽっちも存在しない。  なのに僕は一本だけの傘を差してこうやって駅前に立っている。 (……なんで……?)  自分の行動の不可解さに途方にくれてしまう。昼間、西田とのやりとりで紅蓮に後ろめたさを感じたのを多分僕は引き摺っているのだ。だからって合理的な行動を取らない理由にはならないけど。  傘も一本だし迎えに来る意味もないし、恥ずかしくていつ帰るの? と連絡すら出来ない。やっぱり帰ろうかなと思いつつ、一応駅舎の中を覗いてみると、いつもの三倍くらい人であふれていて驚いた。どうやらどこかで事故があって電車が止まっているらしい。まったくツイてないことだ。  ツイてないのは、僕じゃなくて、紅蓮だな、とはたと気づいた。  雨が降り、傘を忘れ、急に冷え込み、しかも電車が止まる。  この間紅蓮が見つけたニジュウヤホシテントウが頭をよぎる。僕が一緒に住んでいるから不幸が移ったんじゃなかろうか。ざわざわとした気持ちで改札の向こうを見つめても、待てども待てども電車は来ない。まあ、いざとなればタクシーでも使って帰るだろう。  電車止まってるから帰り気を付けて、とLINEを送る。やっぱり家で鍋を作って待ってる方が賢明だった。途方に暮れた顔をしている人々から目をそむけ、畳んでいた傘を開き、また冷たい雨の中へ、戻ろうとしたとき、 「冬弥!」  ぽん、と肩を叩かれた。 「……え」  振り向いて驚く。  スーツにネクタイ姿の紅蓮が、全身びしょぬれで、満面の笑顔で立っていた。

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