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8・年の瀬-1

 クリスマスが終わって、同時に冬休みが始まった。  紅蓮は年始までお休みで、僕もゼミに顔を出すのはぽつぽつくらい。行っても半日もいれば帰ってこれる。それぞれに少し忘年会があるくらいで、特にやるべき課題もない。お互い、暇人だった。多少は一緒に出掛けたりもしたけれど、だいたいは家の中で過ごした。  長い連休。家の中で。気の向くままにゲームをした。桃鉄の新作を買ったし、スーパーファミコンのマリオカートも持ち出して遊んだ。ゲーム好き二人家にこもって、古今東西のゲームに囲まれれば、もちろんゲーム三昧の日々……と、なってもよかったのだけど。  それだけにとどまらなかったのは、二人が、ただの暇人同士、じゃなく、恋人同士……、に、変わっていたから。  そもそも血気盛んかつ好奇心旺盛な若者だ。誰の目にも触れない場所でずうっと二人きりでいるともなると、進みはじめてしまえば、早い。  はじめて手を繋いでから、キスをするまで、三十秒。舌が入ってくるまで、それから二分弱。  同じ布団で、寄り添いあって眠るまで、一日。腕枕や膝枕を試すのにそこから半日、ぎゅーと抱きしめられて頭を撫でられながら眠るまでそこから半日(夢の中みたいに!)。それだけの間隔すら、だんだん、じれったくなってくる。それから丸一日後、つまり添い寝しはじめてから三日目の晩。服の中に先に手を入れ、先に相手の素肌を撫でたのは、実は、僕のほうだった。  じかに撫でた紅蓮の腹の、熱くって、ぴくっと震えて固まったのを感じたとき、確かに僕の内側にむらっとわきあがった性欲を、好きな人に性欲を覚えて心の底から喜んだことを、きっと一生忘れない――その日、紅蓮の大きな手のひらに丁寧に擦られて果てたことも、次の日、尻の穴を指で掻き混ぜくられて声が出るほど気持ちよくなれたことも。  なんだ、ゲイじゃなくても、紅蓮と恋人らしいことができるんだ。いや、もしかして、ゲイだったのか? こんな恥ずかしいことをされて、女の子みたいな声が出て。「ラッキーだったな」と紅蓮は笑った。「初めてでこんなに尻で感じられる奴、俺、見たことも聞いたこともないぞ」そんなラッキー嬉しくない……嬉しくないけど……とびきり嬉しい。だって、だって……そのおかげで……紅蓮が僕を、こんなにたくさんかわいがってくれる。 「――あっあっあっ、う、そこっ、うぅ……」 「ここ、きもちい?」 「うん……きもち、いっ」  もう、指だけで、何回イかされたことか。  付き合いはじめて五日目、真昼間から、ベッドの上に裸で寝かされて、頭を撫でられ、舌を舐られ、尻を三本指で摺り上げられて。最初は一本ずつ、こっちがもどかしくなるくらいおそるおそる深くして、手探りで壊れ物を探すみたいにゆっくり動かされていた指が。いまや腰が揺すられるくらい激しくナカを掻き回し、絶え間なく前立腺を擦り上げてくる。堪えていないとすぐトんでしまいそうな快感が下腹部をじんじん熱くして、触られてもいないのに固く勃起した僕のそれがぽたぽたと涎を垂らしている。すぐ気持ちよくなって恥ずかしい。これじゃそっちの才能があると言われても仕方ない。紅蓮とこんなことにならなけりゃ、この才能も知らずに持て余していたわけだから、そういう意味で言えばラッキーだろう。  指で僕をいじめているときの紅蓮は本当に楽しそうだ。楽器でも弾いているかのようだ。彼が激しく指を動かして、楽器の僕が思い通り鳴けば、彼は汗ばんで高揚した顔でとても気持ちよさそうにする。そして大口をあけてがぶりと僕の唇にかぶりつき、ますます指で攻めて鳴かせて、僕のなさけない鳴き声が外に漏れないように、自分のものだけにしようとする。 「ん、んんっ」  肉厚の舌が舌を絡めとり口の中を好き勝手に舐めまわすと、僕の尻の中で好き勝手に動いている指の動きと相まってますます気持ちよくなって、なにがなんだか分からなくなって。 「んンッ、ふ、……ぅン――ッ」  そのまま、イかせて……くれない、今日は。  ちゅぽんっ、と指が抜かれるのが、僕の尻が出した音なのがまた恥ずかしくってゾクゾクする。 「……ぁ、は、あっ……」 「はぁ、ん、冬弥……」  口を離した紅蓮が、僕に覆い被さった体制のまま、糸の引く唇をそっと舌で舐め取る。逆光で影の差した顔に、にやりと上がる口角、らんらんと光る目。  普段のわんころみたいな可愛げはどこにやったんだってくらい、行為中の紅蓮は、まるで狼みたいに獰猛な顔だ。 「……本当に今日、挿れていいんだな?」  低い声で囁く彼が、ゆるゆると扱く彼自身――体格に見合いすぎるちょっとグロいほど大きなそれが、バキバキに血管を浮き上がらせて、まっすぐこちらへ向けられている。  今日は、遂に本番のセックスをしてみようって、元からそういう約束なのだ。 「……うん」  頷いた。頷いたけど、目が彼のデカすぎるそれからいっときたりとも離れようとしない。手で扱いてやったときも、口でしてあげたときも思っていたけれど、こんなのを挿れて出し入れされたら僕の腸は突き破られてしまうんじゃないか。  いや、痛いのも、痛いのももちろん怖いけど、本当に怖いのは。  僕はこんなに紅蓮に気持ちよくしてもらってるのに、僕の体で紅蓮が気持ちよくなれなかったら、どうしよう、ってことだ。  手でやるのも、口でやるのも。気持ちいいと言ってくれた、上手だなと喜んでくれた。でもそれは男同士だからイイところが分かるから、気持ちよくできるのであって、尻に挿れられるぶんに関しては僕側からどうしていいのか分からないし、もし具合がよくなかったとしたら、不可抗力で紅蓮をがっかりさせてしまうわけで……相性悪かったらどうしよう。僕の心配をよそに紅蓮は、ぴた、と銃の照準を合わせるみたいに、尻穴に先っぽをくっつけた。

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