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「人肌」

「――――……雅己?」  啓介が目を覚ましたみたいで、名を呼ばれた。  咄嗟に啓介を見下ろすと、ちょっと眠そうにオレを見上げて。 「……また起きてしもた? ほんま眠り、浅いなぁ……?」  なんて言いながら、啓介もよいしょ、と体を起こした。    ……1人で寝てる時は、こんなんじゃねえよ。いつもぐっすり朝まで寝てるっつの。  お前と寝てる時だけだし……。 「こっち、来いや」  啓介の腕が、オレの二の腕を掴み、引き寄せた。  つか、やめろ、全裸で抱き寄せんな。 「――――……っ」  ……でも、人の事は言えない。  オレだって、こいつに服を脱がされて色々されてから、そのまま何も着ていないんだから。  裸のまま、啓介に引きずり寄せられて。  身体が触れ合う。  ――――……何だか今日は冷えるからなんだろうか。  人肌は、男の啓介のでも、結構暖かくて、気持ちい……い、いや、良くない良くない。 「……離せってば」  そう言うけど、ええやん、と言って、啓介はクスクス笑うだけ。  そして、まったくびくともしない。  こいつとこうなってから、改めて、知った。  ――――……なんというか……。  随分ちゃんと鍛えてきてたんだな、という事。  そういえば高校ん時から、筋トレが趣味とか言ってたっけ。  胸板とか。腕の筋肉とか。腹筋とか。  それを見てると、こんな身体だったら良いのになーなんて思ってしまう。  それは、同じ男として。  ちょっと羨ましい。  オレだって、バスケ部だったし、そこそこ一緒に筋トレしてたのに。  なんか、全然及ばなくて、悔しすぎる。  もちろん、そんな事、啓介には絶対に内緒だけど。  でも、その筋肉のせいなんだろうか。  もうすっかり動けずに、啓介の胸の中に、何やらすっぽりと抱き締められてしまった。 「……雅己、眠れないん?」 「――――……」  無言で頷く。 「……そか。 なぁ、明日もゆっくりできるん?」 「――――……用事はねぇけど……」  ――――……あ、そうだった。  土曜なんだから、予定入れてくれば良かった。  そしたら啓介とずっと2人なんて状況は阻止できたのに。  ……つーか、用事あるって、嘘でも何でもつけば良かった。  言ってすぐ、オレが後悔しまくっていると、啓介が、くすっと笑うのが感じられた。 「……?」  今って笑うとこ?   不思議に思いながら、オレが啓介を見上げると、何だか知らないがやたら嬉しそうというか、幸せそうな顔をして、啓介がオレを見下ろした。 「……な、んだよ?」 「雅己、なんだかんだぶつぶつ言いながら、毎週ずっとオレと居てくれるなあと思て」 「……」  そういえば、確か先週も先々週も、同じ事聞かれて、同じように答えて、そして同じように後悔していたっけ。  あれ。オレ、学習機能って、ついてなかったっけ。  ……いやいや、そんな筈ない。 「来週は分かんねえから。オレだって忙しいし」 「ん、わーてるよ」  クスクス笑いながら、啓介はオレを抱き締める。 「……」  来週こそは、用事入れちまおう。  絶対、そうしよう。  企んでいた所に、ふと啓介がオレの顎に触れた。 「? ……なに?」  くい、と持ち上げられて不思議に思い、そう聞いた。  けれど、啓介は何も答えてはくれないまま――――……。 「……んっ?」  重ねられた唇が、慌てる間もなく、すぐに深くなる。

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