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「自業自得」

「こっち来いや、雅己」  ソファに居た啓介に呼ばれて、その下に座ると、すぐにドライヤーの電源が入って、髪に触れられる。 「――――……」  気持ちいい。  暖かいし、手、優しいし。ふわふわ、眠たくなってくる。 「……ん、終わり。ええよ」  啓介が言って、ポンポン、と頭を叩きながら立ち上がる。 「ありがと」 「ん」  ドライヤーを片付けに行った啓介は、キッチンでお湯を入れたココアを持って戻ってきた。 「雅己、ここ置く」 「うん、ありがと」  ココアを目の前のローテーブルに置いてくれて、オレの隣に啓介が座った。 「啓介、熱上がってない?」 「ん。ないと思うけど」 「触らせて」 「――――……ん」  右手を額に向けて差し出すと、くす、と笑いながら、額を差し出してくる。 「……なんか、熱くねえ?」 「え、そうか?」 「――――……ちょっと待って」  立ち上がって持ってきた体温計を啓介に差し出す。 「大丈夫やと思うけど……」 「……いいから」    ピピ、と電子音。ちら、と見て。 「――――……あ、大丈夫、熱、ないで」  速攻体温計をしまおうとした啓介の手を掴んで止めて。 「貸せよ」  オレが言うと。 「無いて、言うとるやん……」 「……バレバレなんだよ、いーから貸せって」  奪い取って確認。 「――――……7度5分か……つか、熱っぽいとかねえの?」 「全然、平気なんやけどなー……」 「ごめん……やっぱ、さっきの、やめときゃよかった」 「さっきのって?」 「……お前のベッド、行かなきゃ良かった」 「ああそれ?」  クスクス笑いながら、啓介はオレを後ろから引き寄せて、自分の足の間にすっぽりと抱き込んだ。 「別にそのせいで熱上がったんやないし。元気やし、大丈夫」 「――――……んなこと言っても、熱あるじゃんか」 「それより、お前にうつってないか心配やけど……」 「オレは平気。うつったら看病してもらうし。さっきのでうつったら、あれは自業自得だし」 「自業自得って……」  言うと、啓介はおかしそうに笑ったけど。  ……笑い事じゃない。  ほんと、今日のはオレが悪かったよな……。 「……落ち込むなや。元気やし、すぐ治るて」  うしろから、ぎゅ、と抱き締められる。 「別にお前が勝手にしたんやなくて、完全にオレの意志やし」  優しい声。  ……ほんと。いつでも、優しい。  ……思えば、会った時からずーっと、啓介は、オレに優しかった、な……。  よく友達らが、オレを甘やかすなって、啓介に言ってたっけ……。  こんな関係になってからは、ますます、優しくなった、気がする。

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