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「お願い」

「なー、雅己こっち向けや」  少しだけ落ちて、は、と気づいた瞬間から。  啓介に背を向けて 布団にもぐった。  啓介は、ぽんぽん、とオレの背中を叩いてる。 「……やだ」  ……もう嫌だ。  絶対やだ。  オレ今日、どんだけイかされた訳。  どんだけ、喘がされて。最後、どんだけ、叫ばされて。  お前の事、好きかもとか。  思った事も覚えてるけど。  そういう問題じゃない。  オレ、ほんとに何回、イかされたの。  もう全然覚えてない。  ――――……違う、覚えてないのもそうだけど。  思い出したく、ない。 「雅己て……」 「……嫌だ。触んな」 「もーしゃあないなあ……」  布団ごとひっぱられ、ぎゅー、と抱き締められてしまう。 「もー……離せよ!」  頑なに丸まってたのに、軽々引き寄せられ、思い切り顔を見合わせる位置に持っていかれて、ぐい、と胸に手をついて離れようとするのだけれど。  その抵抗も、容易く抑えられる。  落ち着いたのは、啓介の開いた足の間に座らされて、後ろから抱き締められるような感じの体勢で。……もう逃げられる気もしない。 「――――……そろそろ諦めたらええのに」 「……っ……なにをだよ」 「お前は、オレに抱かれるのが好きやて。諦めたら?」 「――――……っ……」 「それでええやん」  後ろから、かぷ、と首筋に噛みつかれて。  瞬間、ぞく、として、「あ」と声が上げてしまって。ば、と手で口をふさいだ。 「――――……オレはお前抱きたいし、お前も、気持ちええ、でエエやんか」 「……っ」 「別にそれだけやないし。ずっとお前の事好きやし。ずっとお前と居たいし」 「――――……」 「お前もオレと居るの、好きやろ?」 「…………それは……昔から好き……だけど……」 「なら全部、好きでええやん……それやと、あかんの?」 「――――……オレ、今日やだって言ったじゃん」  そう言ったオレに、啓介は後ろで一瞬固まって。  それから、ぷっと笑った。 「お前は今日だけやなくて、いーっつも、やだて言うてるけど」 「……っ……」 「お前のやだ、は、良い、てことやと思うて聞いてるんやけど」 「――――……」 「気持ちようすると、すぐやだて言うやん」 「――――……っほんとに、嫌なんだよっ」  んー、と啓介はしばし唸ってる。 「……もうさっきオレ……何回、イかされたんだよ」 「んー? そうやなあ…… 」  数え始めそうな啓介を、「数えんな、バカ!!!」と叫んで止める。  クスクス笑ってるのを、振り返って睨みつつ。 「……啓介、ちょっとお願いがあるんだけど」 「お願い?……んー。とりあえず言うてみ?」 「……オレ、お前に抱かれるの、ちょっと……しばらく、やめたい」 「……ふうん?」 「なんか…… 体、おかしくて、困る」 「……困る?」 「……なんか、され過ぎてて、おかしくなってて、ほんとに、やだ」 「――――……」 「だから、休憩……ていうか……しばらく、無し……ってできねえ?」 「――――……んー……いつまで?」 「……オレが…… いいっていうまで」 「お前、良いって言う日、来るんか?」  ……それは、わかんないけど。 「――――……ええよ」 「え」 「えって何やねん。お前がそこまで言うなら、ええよて言うてる」  あっさりいいと言ってくれるなんて思わなかったから、拍子抜け。 「いいの?」 「ええよ。……ええけど、そのかわり」 「そのかわり?」 「お前が、もうええってなったら…… してる最中に、嫌だて、もう言わないようにするて約束できる?」 「……」  ……嫌だって、言わないように……?  これ、約束していいのかな。  あ、でも、なんなら、もう、いいって言わなきゃいいのか。  しなくても全然いいし。  ていうか、きっと、心安らかな日々を送れるわけだし。  体おかしくなって、21時に寝るとか、しなくて済む訳だし。 「……分かった。約束する」 「おし。なら、今からな。……あ。キスは? キスくらいはしたいんやけど」 「……んーーーー……舌、入れなきゃ良い」  葛藤の末言った言葉に、啓介は、分かった、と頷いた。  こうして。  ――――……心安らかな、日々が、始まった。

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