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「納得いかない」

「本当に、申し訳ありませんでした」 「ほんま、こんくらい大丈夫やから」  そんな、同じようなやりとりを数回して、ウエイトレスの女の子は、去って行った。  オレの家に明日の荷物を取りに行った帰り道に寄った、ファミレス。  啓介が注文したソースとは違うソースがかかったハンバーグが出てきた。  ウエイトレスの女の子が、伝票を見ながらメニュー名を言って、そこで違う事に気が付いたらしく。急いで取り換えてきます、と言ったのだけれど、啓介はやんわり、断った。  でも、という女の子に、大丈夫と何回か言って。  そのやり取りを見てて、思った。  ――――……絶対モテるよなー。  優しいもんな。  高校1年の時に会ってから、啓介が怒るとこや、人の文句言ってるとこ、やっぱりオレ、あんまり見た事ないや。そりゃ、多少はあるのかもだけど、ほとんど記憶に残ってない。  意見としては言うから、それは、話し合うとか、そっちの方。  その方がいい、と思う時に、陰で言うんじゃなくて、まっすぐ相手に伝えて、話し合う。    考え方がとにかく前向きで、なんでもいい意味で受け取るし、だから人に対して出てくる言葉も、いつも優しくて、嫌な思いさせる事とか、無い。……気がする。 「……何や?」 「……いや。別に……お前は、モテるだろうなーと思って」  じっと見つめてたオレに気付いて、首を傾げた啓介に、そう言ったら。  啓介は、少し黙った。 「そういや、さっきも、モテるとか、そんなような話しとったん?」 「……あー、あれは…… 別にオレがモテたいとかで話してた訳じゃないんだけど……あいつらが勝手にそういう話にしたんだよ」 「……まあ。 お前の顔みたら、何となく分かったけど」 「何オレの顔って」 「オレはそんな事言ってない、って顔」  クスクス笑う啓介に、はー、とため息。 「バレバレだったから怒らなかった?」 「んー……もし雅己がそう言ってたんやしても――……んな事で怒らんよ」 「……?」 「……モテたいとか思うのは普通の事やし。雅己を好きな子、オレも知っとるし。ほんで、雅己が彼女欲しいって思うても、普通の事やし」 「――――……」 「……そこは、オレが怒るような事やないやろ」 「――――……」  そう言われれば、もちろんそうなんだけど。  ――――……そう、なんだけど……。  むしろ、そんな風に色々分かってくれる啓介って……いい奴なのは分かるのだけれど。 「食べよ、雅己」  せっかく熱々のご飯が目の前にあるのに、何となく食べずに話してた事に、そのセリフで気付いて。啓介が渡してくれたフォークで、食べ始める。  分かるんだけど。  ――――……何、それ。  オレが、彼女欲しいって思うの、普通なの?  ……それで、いいのかよ。  じゃあ、オレの事を好きな子を、もし、オレが好きになったら。  お前は、それも仕方ないって言って、 オレと別れんの。  ――――……オレが怒るような事やない、って、  そんな風に言って、離れんのかよ。  なんか。すごく、納得いかない。  ……納得いかないという事にも、自分で納得いかない。  友達として大好きだった啓介に、  流されて付き合ってるとか、オレ、いつも思ってるくせに。  そんな簡単に、オレが女の子の方に行ってもいいんだ、て思うと……。  なんか、すごくムカつく――――……というか………怒りというよりも、なんか……。  ……何だろう、……苦しい??  ――――…… 胸、痛い……?  ちょと待て。 整理しよう。   ひたすらもぐもぐ食べながら、自分の中の気持を整理する事にする。

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