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「普通って」

 啓介は、オレがモテたいのは、普通の事だって、言った。  雅己の事好きな子、知ってるって。それで、彼女欲しいって思っても、普通だって。  ……何、普通って。  ……オレとお前だと、やっぱり、普通じゃないから?  女の子にモテたいとか、彼女が欲しいっていうのは、普通だから?  だから、お前は、オレが、そう思っても、怒らない訳?  それが、普通の事、だから……?  でも、それって。  それってさ。今のオレ達の事が、もう、どうでもいいって事? 「……あのさあ、啓介さ」 「ん?」 「……オレが、彼女欲しいって、ほんとに動き出しても、怒らないのか?」 「――――……お前がそうしたいて言うん、怒ったってしゃあないやん」  ……そうだけど。  ……そりゃそうだけど。  ……止められたって、確かにほんとにそう思ったら、そんなの怒ったって、しょうがない…… ていうのは、多分、そうではあるかもしれないけど。  ……なんか、そんな、普通の顔で。  ……割り切ってる、みたいな顔で。  そんな、普通に言われると。  ――――…… こっちが、痛いんだけど。  胸がざわざわする。 つん、とした痛み。  オレが女だったら、泣いてんじゃねえのかな、と思う、痛み。な気がする。男だから、こんな事で泣けないと思って、我慢してる、感じ。  どうでもいい、と、言われてる気がする。  どうせ、お前は女にモテたいし、彼女欲しいから、いつかそっちにいくんだろ、それは、普通の事だから、仕方ないし、止めない。  ……そう言われたような、気がする。  さっきみたいな、キス、してきたすぐ後に、  ――――……言うのは、それ、かよ……。  ……つか、分かってる。  一番、女とか、男とかにこだわってるのはオレだし。  ――――……男なのに、嫌だ、とか、男だから、とか、散々言ってるのもオレだし。女のとこ行けよ、とか。啓介に言ってるのもオレだし。  ……オレが、そうなんだから、啓介に何か言う立場でもない気もするんだけど……。  もう、本当に、よく分からなくなってくる。  色々葛藤しながら、やけくそのようにご飯を口に放り込んでいると。 「雅己、もうちょい、噛んで食べろや」  啓介は、普通に苦笑いなんてしながら、オレにそんな事言ってくる。  つか、今言うべきは、それじゃねえだろっ。  ……ても、だからって何を言えとか、分からないけどっ。  もう、 なんなんだよ、この気持ちは。  飲み込むように食べてたので、啓介よりだいぶ早く食べ終わった。  オレは、財布から、千円札を取り出すと、伝票の上に置いた。 「雅己?」 「――――……ごめん、オレ、ちょっと歩きたいから、先行ってる」 「は?ちょお待……」 「大丈夫、お前んち行くから」 「――――……」 「ゆっくり食っていいよ。向こうで会おう」  納得いかなそうな顔をしてたけど、それ以上引き止められなかったので、オレはそのまま、店を出た。

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