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「分かんない」

 ――――……1人で、早足で、歩く。 「――――……」  こんな風に、啓介を置いて出て来ちゃうなんて。  初めてかも……。  啓介の家に行くって伝えたし、多分、そんなに怒ったりはしないとは思うんだけど。  ……ちょっと逃げたみたいで、感じ、悪かったかな……と、思うのだけれど。  でもなあ、と思い直す。……しょうがない。    啓介は、もともとは、女の子が好きだったはず。  ……だからこそ、オレの事も、「気になってた」けど認めずに、女の子と付き合ってたって、確か、言ってた。  好きかなって思っても、男だから、来なかった。  それでも……ていうか、それだからこそ。  ある程度は覚悟を決めてから、オレに、言ってきたんだろうけど……。  ……一生居たいって、言ってたし。  ……オレに告って、一生って言うからには、他の女の子とは、付き合わないって、決めたから……だと思ってたんだけど。  ――――……オレが、女の子にモてたいって言っても、彼女が欲しいって言っても、怒らないって。  怒ったってしょうがないから、怒らないって。  全然よく分かんない。  じゃあ、いいのかよ、オレが、お前以外の奴と、付き合って。  オレが、お前以外の奴と、付き合って、  そしたら、お前だってきっと、オレ以外の奴と、付き合って、  でもオレ達は、1回、こんな関係になってしまってる訳で。  そしたらきっと、もう普通の友達になんか、戻れない、訳で。  ――――……じゃあ、オレ達は、違う奴と付き合いながら、  もう、全然、絡まずに、生きてく、て事だよな。  それを、あんな、平気そうに、  言われるって。 「……っ……」  急に、目頭が熱くなって。視界が滲んだ。    ……胸が痛いのが、勝手に涙になった感じ。  喉の奥も痛いし、もう、ほんと、やだ。  啓介のマンションの前で、立ち止まる。     オレ、涙目だし。  啓介に見られたくない。  やっぱりもう少し、歩いてこよ。  よし、そうしよう。  啓介のマンションを通り過ぎてしまおうと、歩き始めた瞬間。  腕をぐい、と掴まれた。  え。  振り返ると、啓介の姿。  ……あれ?  早くない? 「……飯、途中やっちゅーの。 ったくもー。なんなん、お前」 「――――…………」 「すぐ店出て帰ってきて、バイク停めてここ来たら、お前、通りすぎていこうとしとるし。……なんやねん、ほんま」 「――――……」 「捕まえられて良かったけど……」  ほっとしたように言う啓介。  ふ、とオレの顔に気付いて、のぞき込んでくる。   「……泣いとるん?」 「……っ目にゴミ、入っただけ」 「……はー。 目にゴミ、ね……」  はー……。  啓介が、ものすごい、ため息をついてる。 「――――……もう、家、来いや」  ぐい、と引かれて。  歩き始めた啓介に、引っ張られる。  触れてる手を、どうしてか振りほどけなくて。  そのまま、啓介の後ろを、黙ったまま、ついて歩くしかなかった。

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