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「分かりにくい」

 啓介の部屋に一緒に入って。  すぐ、シャワー浴びといで、と言われた。  まあ。ちょっと涙目だったり。早歩きで汗かいてたし。  ……ちょうどいいやと思って、すぐシャワーを浴びた。  すっきりして出ていくと、啓介もさっさとバスルームに消えた。  水を飲んで、ぼーーー、とソファに座ってると。  啓介が戻ってきて。  ペットボトル片手に、オレの隣に座った。 「……どこ行こうとしてたん、お前」 「……もう一周、歩こうとしてただけ」 「なんやそれ……」  はー、とため息の啓介。 「ほしたら、ちゃんとうちには来ようと思うてた?」 「うん。思ってた」 「ならまあ、許すけど……」  髪の毛を撫でられて。 「……ドライヤーしよか」  優しく言って、啓介が立ち上がる。ドライヤーを取ってきてくれて、すぐに掛けてくれる。優しい手つきに、ほっとする。  乾くまで、無言で。気持ちよくて、ぼーっとしたまま。 「オレもやる……」  その後、啓介とチェンジした。  啓介の髪、乾かすの、今日2回目だ。  そんな風に思いながら、終えると。 「1日に2回も、かけてもらうとか――――……」  啓介も同じ事を思ったみたいで、クスクス笑う。 「……ありがとな」  言って、啓介がオレの手からドライヤーを取って片づけに行った。  戻ってきた啓介が、オレの髪に触れる。 「こん時の髪、めっちゃフワフワ」  クスクス笑いながら、撫でられる。 「――――……」  そのまま、ちゅ、と唇にキスされる。  すぐ離れたキスに、啓介を見上げる。 「……啓介さ」 「ん」 「……オレとこういう事するのは、今だけって、思ってる?」 「――――……なんや、それ」  ちょっと不服そうに、眉が寄る。 「……だって、オレが、女の子に行っても、怒んないって言ったじゃん」 「――――……」 「それが普通の事だって、言ったじゃん……」 「――――……」  言うと、啓介は、ふ、と苦笑い。 「確かにオレ、怒らないって言うたけど……」 「……?――――……」 「……おとなしく、行かせる訳、ないやん」 「……え?」 「怒ってもしゃあないから怒らんよ。まあ雅己にとったら、そこらへんて普通の事やろし、思うのは止められへんし、怒ってもしゃあないやろ」 「――――……」 「……せやけど……もしほんまに女のとこ行こうとしたら、最大限邪魔するし、どんな手使うても止めたいし…… 行かせないつもりやけど」 「――――……」  言い切る啓介に、オレは、何も言えず、ただ見上げて、自分の中で、啓介の言葉を繰り返す。  ――――…………。  怒らないって、そういう意味?  ……怒ってもしょうがないから、怒らないけど、  ちゃんと、行かせないようには、してくれんの?  ……怒らないって、どうでもいいってほっとくって意味じゃ、ないのか。 「……分かりにくい、お前」 「は?」 「――――……オレが女のとこ行くのは普通だから、それならそれでもういいって、言ってんのかと、思った」 「――――……」 「そん時がきたら、それはしょうがないからって簡単に言って、オレたち、離れるんだと思った」  ため息をつきながらそう言うと。  しばらく、啓介は、無言。  ため息とともに下に落としていた視線を、ふ、と啓介にあげると。  啓介は、びっくりするくらい、なんか真顔。 「え、なに……?」 「なに、て――――……」  啓介はまっすぐオレを見下ろして。 「そんな事思うて、店、出てったん?」 「――――………」 「……涙目んなってたんも、それ?」  ――――……あ、やば。  なんか、口走ったかも。  オレは、答えられずに、啓介から顔を背けた。  

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