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「普通」

 なんか今のってオレ……。  お前がオレをどうでもいいって言ったから、拗ねて、店飛び出して泣いてた、みたいな話になっちゃうじゃんか。  ……っていうか、実際、それに近いものはあるけど。  でも、それだけじゃなくて、なんか他にも、色々思う事はあって。  そんなバカみたいな、簡単な話じゃないのに。  啓介が背後でどんな顔してるんだか、何を思ってるんだか分からないけど。  恥ずかしすぎて、向けない。  もう、ほんと、何言ってんだ、オレ。  いつも、勢いで良いとか言っちゃって、仕方なく付き合ってるみたいな態度してるくせに。  こんな事だけ言ったって、啓介には、何も伝わんないし。  ほんとはもっと、ちゃんと、色々話さなきゃいけない気がするのに。 「――――……雅己……?」  腕を掴まれて、ぐい、と引かれて、啓介の方を向かされる。  力、強いんだよもう……。 「今、何思うてんの?」 「――――……っ……」  整った顔が、なんだかものすごく、真剣。  なに答えれば、いいか、よく、分かんねえのに。  目が逸らせない。 「雅己……?」 「――――……っ……お前、オレの事好きとか言うけど……やっぱりお前も、女が普通って思ってるんだと思ったし……」 「……それは、雅己にとって、て意味で言うたけど」  その答えに、少し、言葉に詰まる。  オレにとっては、女が、普通って。 「……じゃあ、お前にとっては……?」  見上げたまま、聞くと。  少し黙った啓介は、ふう、と息をついた。 「――――……オレ、こんなにお前の事好きて言うてるし、合鍵渡して、いつ越してきてもええて言うてるし、毎日でも抱いてたいけどお前が嫌やて言うから我慢もしてるし。 女に誘われても見向きもしてへんの知っとるやろ。何してたって、お前が一番で、ずっとそばに居んのに」 「――――……」 「オレにとっての普通――――…… 普通っちゅうか…… 絶対は、雅己やし」 「……っ……」  言われてる内に、恥ずかしくなってきて、顔に熱が集まってくる。  並べて言われると、確かに、何でこんなに、というほど、側で、大事にされてる気は、する。  だけど――――……。  あ、分かった。  こいつの事、好き、だと、思っても。  こいつに抱かれたいって、思っても。  ……素直になれない、理由。  さっきの言葉で、やっぱり離れるんだと、簡単に思った、理由も。    なんか、今、分かった。 「オレ、何でお前が、オレの事、そんな好きなのか、全然分かんない」 「――――……は?」 「だって、啓介、オレの事気になってたけど、最初認めなかったって言ってたじゃん。……て事は、お前だって、ほんとは、女の子が普通だって、思ってたんじゃん」 「――――……」 「……どうして、オレの事、好きなんて、認めたんだよ」 「――――……」 「何で、好きなんて言ったんだよ。高校の時から気になってたとか言っても、オレに言ったの大学入ってからだしさ。長い事、認めたくなかった、て事じゃん。――――……そんな、嫌だったのに、なんで、認めたの」  言ってる内に、どんどん、そう思ってくる。  ……そうだ。  ……納得できないのも、オレが 完全にお前受け入れたくないのも。  ……お前は、もともとは、女の子が好きなのに。  なんで、こんな風に、オレに来たのか、分かんないから。  高校時代も、大学入ってしばらくの間も。  ――――……お前は、オレの隣でずっと、女の子達と居た訳じゃん。  啓介は、じっとオレを見つめて。  それから、はー、とため息をついた。 「お前、ほんまにオレの事、信じてないんやなー……どっから話せばええんやろ……」  深いため息とともにそう言って、啓介は、オレの隣に腰かけた。

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