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「同居開始」

 引っ越しの準備は、すごく順調にできた。  普通なら日常使うものは、引っ越し当日まで段ボールに入れられないとかあるのだろうけど、啓介の家に暮らしながらだったので、とにかく全部詰めていけばよくて、何もかもスムーズだった。  家電や家具は、啓介の家にある分は捨てたり売ったりもして。割とあっという間に準備出来てしまって、業者に頼むのも、単身パックと言う一番小さなものなので、すぐ依頼もできた。  再来週から、学期のテストが始まる。その前に終わらせようという事で、一番早く頼める土曜日で決めた。  引っ越し当日、朝からすごい暑かった。  荷物はほとんど段ボールに詰め終わってたし、呆気ない程に楽な引っ越しだったのに、それでも、啓介の家について、次々マンションに運ばれてくる荷物を部屋に運んだり、箱を開けたりしている内に、なんだかんだで汗だく。  引っ越し業者が帰って行って、玄関を閉めてようやく効きだしたエアコンの風にあたりながら、オレは、啓介を見上げた。 「なんか…… 今日から、よろしく」  言ったオレに、啓介は、ふ、と嬉しそうに笑って。  むぎゅ、と抱き締めてくる。 「……っ暑いんだから、抱くなって……」  オレの抗議に、啓介は笑うだけ。  そのままぎゅーと抱き締められたまま。 「……もうお前、ずっとここに居るんやな」 「……オレ今までも結構ここに入り浸ってたけどな?」  言いながら、ついつい笑ってしまう。  すると、啓介は、全然ちゃうよ、と、笑った。 「入り浸ってても、荷物とか服とか取りに帰ったりするし…… 帰るていう言葉は、今までは、お前のマンションに使う言葉やったし」 「……まあそうだけど……」 「これからは、どっちに帰る?とか聞かんでも、ずっと一緒なんやで?」 「……それ、嬉しい?」 「当たり前やん」  ……ほんと、嬉しそうな顔。してるなあ……。  見上げながら、そんな風に思って、笑ってしまうと。ちゅ、とキスされた。 「雅己」 「ん……?」 「ほんまにありがと。オレと一緒に居るて、決めてくれて」 「……うん」  ていうか。  そんなの、お互い様だし。なんて思っていると。  啓介の唇が、オレの唇に深く、重なってきた。 「……ン……っ ……ん、ん……っ……?」  いきなり本気っぽいキスに、少し引き離す。 「……片付け……あとにせえへん?」 「……っ……むり」 「えーーー、なんでやねん……」  抱き締めてこようとする啓介を、無理無理無理、と引きはがす。  すげー汗かいたし。  なんかほこりっぽいし。  こんなんでやるとか、絶対やだ。  引きはがしたまま、逃れて、さっさと片づけに戻る。 「ほんまツレへんなー……」  言いながら、はー、とため息をつきつき、後ろで段ボ―ルを開け出す啓介にちょっとほっとしながら。  本棚に本を並べながら、少し考える。  ていうかさー。  ……汗かいたからやだ、とか。  よく考えたら……なんかすげー恥ずかしいな。  ……される気とか。なめられる気とか……満々みたいで。

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