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「好きだから」

「……雅己?」  部屋の電気もつけずに、ぼーっとしてたからか、何だかすごく静かな感じで、啓介がオレの名を呼んだ。部屋の入口に立ったまま、入ってこない。 「どした?」 「別に。 ぼーっとしてただけだよ」  そう答えて、啓介の方を見ると。  静かに近寄ってきた啓介が、オレの隣に腰かけた。 「――――……」  ……なんか、静か。  隣の啓介をただ見つめてると。啓介が、ふ、と笑った。 「ん?」 「――――……なんか、嘘みたいやなーて思うて」 「何が?」 「お前とほんまに、こうなったのが」 「――――……」 「……付き合えばいいんだろ、から始まったし――――…… いつ、もう嫌だって言われるかなとも、やっぱ覚悟もしとったし」 「――――……え、そうなの? 意外……」 「そりゃそうやろ。もともとお前、女の子が好きやろし。――――……オレの好きとは、全然ちゃうの分かっとったし」 「――――……」 「それでも、無理矢理でも、オレの方に向けて、何なら、体からでもええし、とも思うてたから。 全部無理して進めたけど」 「無理してって――――……分かってやってたんだな」  ぷ、と笑ってしまう。でも啓介は、笑わなかった。 「――――……この話で、笑うんやな、お前」 「え? どういう意味?」  マジメな顔の啓介を、まじまじと見つめてしまう。 「……嫌やないの? なんや、めちゃくちゃ流された気、せえへん?」 「……流されて?」  流されてんの? オレ。  ――――……まあ確かに……お前とすんの、気持ちいいってのも、抵抗できなかった理由ではあるけど。  ……でも、お前の事嫌いだったら、気持ちよくなるはずがないのも分かってるし。 好きじゃなかったら、キスなんか、絶対してないし。 「……迷ったり悩んでた間にすごいいっぱい考えてた事は、もう今はどうでもいいっていうかさ……オレちゃんと、たくさん考えて、もう、ちゃんと、決めたし」 「――――……ん……」 「……とりあえず、嫌だったら、流されてもないと思う」 「――――……」 「好きだから、流されたんだろ、オレ」  出てきた言葉はそれだった。  それ以上は、何も 言う事が無くて。  啓介から返事がなくても、何も追加で話す言葉は浮かばなくて、  ただ、啓介をじっと見つめていると。  啓介は、しばらく、固まって。  それから、ふわ、と。 すごく嬉しそうに、笑った。 「ほんま、お前って――――……」 「……なに?」 「……めっちゃ単純で――――…… まっすぐで……」 「――――……」  ……バカにしてんのかな?  ……単純もまっすぐも一緒じゃね……? 「……オレ、最初会った時から、好きやったなー、お前の事」 「――――……」  咄嗟に言い返せなくて、赤くなったオレに、啓介がくす、と笑って。  伸びてきたその手が、頬に触れた。

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