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「恥ずかしい事」

「ほな、かんぱーい」 「んーかんぱい」  やっと、食事を並べ終えて、2人でテーブルで並ぶ。  ――――……向かい合わせじゃなくて、隣で。  ……近い。もうツッコミも、入れないけど。  かち、とグラスを合わせる。 「――――……オレ、今が一番、幸せかも」  嬉しそうに笑いながらオレを見つめてくる啓介に、はいはい、と返す。 「……ほんまに言うてんやけど」  オレの返しに不満そうな顔をする啓介に、苦笑い。 「別に、ほんとじゃないとか、疑ってる訳じゃないけど」 「せやかて、返事が、はいはい、てないやろー?」 「んー……じゃあ……何て言えば良かった?」 「オレも、とか?」 「――――……」  はー、と深いため息をつきながら、食事を進めてると。 「何やねん、そのため息」 「だって…… 啓介、バカなんだもん……」 「バカ言うなや」 「……じゃ、さっきのもっかい言ってみて?」 「え? ああ、さっきの?」  啓介がちょっと首を傾げてから。 「――――……オレ、今が一番、幸せかも」  もう一度、そう言った。 「――――……うん。 オレも」  と。  試しに、言ってみたけれど。 「――――……無理だろ、これ……」  ……ぷしゅー……がっくり俯く。  ……恥ずかしすぎる。  分かって言ったけど、もう、オレ、真っ赤。 「……つか、よく、そういうセリフを、平気で言うよな」  熱い熱いと、パタパタと、顔を仰ぐ。  啓介は、クスクス笑って、オレの頬に触れた。 「ほっぺ、めちゃくちゃ熱いな……」  笑いながら、啓介は頬を撫でて、手を離した。 「…… オレにそういうの求めてるなら、当分無理」 「当分、なん?」 「……いつか、慣れたら……いやー……慣れるかなー…… 無理かな……」 「雅己は、昔の方が平気で恥ずかしい事言うてたけどな」 「何それ。 オレが一体いつ恥ずかしい事なんて言ってた?」 「高校ん時とか」 「……何言った?」 「――――……啓介が一番好き、とか。啓介と居ると楽しい、とか」 「――――………」  まじまじと、啓介を見つめる。 「オレ、そんな事言ってた?」 「言うてた。 結構普通に、何回も言うてた」 「――――……」  んーー…… あー……。  ……友達としてなら……。  意識してないから、あんまり覚えても、なかったけど……。 「……言ってた、かも」 「かもやないわ。 ――――…… ほんとお前と居ると、楽しいなーとか」  呆れたように突っ込みながら、啓介が笑ってる。 「……うん。だって、楽しかったし」 「オレより仲いい友達、居る?て聞かれて、 雅己が一番仲がいいと思う、て言うたら――――……」 「何?…… オレ、何言ったの?」 「じゃあずっと、そのまま居ろよ、とか。ずっとオレが一番な?とか」 「――――……」  ――――……ああ。……なんか、言われてると、そんな気がしてきた。  確かに、恥ずかしい事、結構言ってたな。  でもなんか、友達としてなら言えるけど。  こういう意味で言うって、大分違うと思うんだけどなあ。

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