143 / 245

「ぶくぶく」

 啓介から避難して風呂に来たのだけど。  やたらでっかい綺麗な風呂に、テンションが上がる。  わー、ナニコレ。  ひろーい!  いいな、ラブホのバスルーム!  ……これって、一緒に入るためにこんなに広いのかな?  ――――……啓介。誰かと一緒に入ったのかな。  ……まあそりゃ。入る事もあるよね……。  …………ムカ。  って。  ――――……はー。  オレと付き合ってもない、オレもまったく意識してない時。  啓介が女の子とそういう事してても、何も悪くない。分かってる。  オレに告ってからは、あいつは、すごく、誠実だし。  ――――……その事も、謝ってくれた。  女の子とそういう事してた事も。  オレに謝る必要なんか、無い事なのに。  謝ってくれたのもあって、余計、怒っちゃいけないと思うし。  ――――……啓介を責めたらいけないと、思ってる。  シャワーで、お湯を浴びながら。  オレは、目をつむる。  啓介は、何も悪くない。  分かってるんだよな……。ほんとに。  何となく、時間稼ぎをしたくて、バスタブにお湯を張る事に決めた。  髪を洗って、体を洗う。ゆっくりしている間に、お湯はある程度たまってきた。  中に入って、置いてあった入浴剤を投入。  途端にお湯が白くなって、良い香りが、ふわっと香る。  わあ――――……柔らかくて良い香りだなー……。  ――――……啓介はオレに甘いから、  オレがこういうので、ちょっと怒っても、許してくれる。  ていうか。謝る事なんか無いのに、謝ってもくれる。    でも。  オレが女の子とは経験なくて。なのに。  啓介は、あるんだよなあ……。  しかも、オレとだって、啓介が、上、だし。  ぶくぶくぶく。  顔半分、お湯に沈み込んでいると。 「雅己ー?」 「……んー?」  ドア越しに聞こえてきた声に、ぶくぶく沈んだまま喉の奥の方で声を出して答えると。 「長いけど。へーき?」 「……うん、平気。お湯に浸かってる」  お湯から口を出して、そう言ったら。 「オレ入ってもええ?」 「――――……何もしないなら」 「……ラブホで、そのセリフ言われるとは、思わんかった」  啓介が笑ってる声がする。 「風呂ではしない。せやからええ?」 「うん……いーよ」  ものすごい拒否るのもどうかと思って、そう答えたら。  しばらくして、啓介が入ってきた。  ちら、とオレを見て。 「顔赤いけど。のぼせてるんやない?」 「……大丈夫」  そう言うと、啓介が少し笑って。それから、シャワーを浴び始めた。  ――――……向こうを向いてるのを良い事に、啓介の後ろ姿、目に入れる。  ……なんか、むかつくなぁ。  頭を洗うために、上げてる腕。  ――――……男っぽくてカッコいい。オレも啓介みたいな体がいいな。  そんな風に思いながら、啓介をチラ見し続ける。    その体で。  女の子と、寝たんだよなぁ。……って。今更すぎだけど。  オレも。  ――――……しようと思えば、今からでも。女の子と、出来る?  まあ。きっと、出来なくはない。と思う。  ……でもなー。オレ、今啓介と付き合うって決めたから。  ――――……それしたら、完全に浮気になっちゃうし。そんなのやだし。  それはきっと、啓介怒っちゃうし。……もしかしたら、悲しませちゃうかもだし。それは嫌だ。  ――――……だけど。それとは別に、ただ思うのは。  ドーテー。  という響き。  受け入れたくない。  なんとなく。  これが受け入れられないのは、オレが、もともとは、女の子としたいって、思ってるからなのかなあ……。  うーーん。  どう考えたらいいんだー…………。  また、お湯に口元、ぶくぶく沈んでいく。  

ともだちにシェアしよう!