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「ぶくぶく」

 啓介から避難して風呂に来たのだけど。  やたらでっかい綺麗な風呂に、テンションが上がる。  わー、ナニコレ。  ひろーい!  いいな、ラブホのバスルーム!  ……これって、一緒に入るためにこんなに広いのかな?  ――――……啓介。誰かと一緒に入ったのかな。  ……まあそりゃ。入る事もあるよね……。  …………ムカ。  って。  ――――……はー。  オレと付き合ってもない、オレもまったく意識してない時。  啓介が女の子とそういう事してても、何も悪くない。分かってる。  オレに告ってからは、あいつは、すごく、誠実だし。  ――――……その事も、謝ってくれた。  女の子とそういう事してた事も。  オレに謝る必要なんか、無い事なのに。  謝ってくれたのもあって、余計、怒っちゃいけないと思うし。  ――――……啓介を責めたらいけないと、思ってる。  シャワーで、お湯を浴びながら。  オレは、目をつむる。  啓介は、何も悪くない。  分かってるんだよな……。ほんとに。  何となく、時間稼ぎをしたくて、バスタブにお湯を張る事に決めた。  髪を洗って、体を洗う。ゆっくりしている間に、お湯はある程度たまってきた。  中に入って、置いてあった入浴剤を投入。  途端にお湯が白くなって、良い香りが、ふわっと香る。  わあ――――……柔らかくて良い香りだなー……。  ――――……啓介はオレに甘いから、  オレがこういうので、ちょっと怒っても、許してくれる。  ていうか。謝る事なんか無いのに、謝ってもくれる。    でも。  オレが女の子とは経験なくて。なのに。  啓介は、あるんだよなあ……。  しかも、オレとだって、啓介が、上、だし。  ぶくぶくぶく。  顔半分、お湯に沈み込んでいると。 「雅己ー?」 「……んー?」  ドア越しに聞こえてきた声に、ぶくぶく沈んだまま喉の奥の方で声を出して答えると。 「長いけど。へーき?」 「……うん、平気。お湯に浸かってる」  お湯から口を出して、そう言ったら。 「オレ入ってもええ?」 「――――……何もしないなら」 「……ラブホで、そのセリフ言われるとは、思わんかった」  啓介が笑ってる声がする。 「風呂ではしない。せやからええ?」 「うん……いーよ」  ものすごい拒否るのもどうかと思って、そう答えたら。  しばらくして、啓介が入ってきた。  ちら、とオレを見て。 「顔赤いけど。のぼせてるんやない?」 「……大丈夫」  そう言うと、啓介が少し笑って。それから、シャワーを浴び始めた。  ――――……向こうを向いてるのを良い事に、啓介の後ろ姿、目に入れる。  ……なんか、むかつくなぁ。  頭を洗うために、上げてる腕。  ――――……男っぽくてカッコいい。オレも啓介みたいな体がいいな。  そんな風に思いながら、啓介をチラ見し続ける。    その体で。  女の子と、寝たんだよなぁ。……って。今更すぎだけど。  オレも。  ――――……しようと思えば、今からでも。女の子と、出来る?  まあ。きっと、出来なくはない。と思う。  ……でもなー。オレ、今啓介と付き合うって決めたから。  ――――……それしたら、完全に浮気になっちゃうし。そんなのやだし。  それはきっと、啓介怒っちゃうし。……もしかしたら、悲しませちゃうかもだし。それは嫌だ。  ――――……だけど。それとは別に、ただ思うのは。  ドーテー。  という響き。  受け入れたくない。  なんとなく。  これが受け入れられないのは、オレが、もともとは、女の子としたいって、思ってるからなのかなあ……。  うーーん。  どう考えたらいいんだー…………。  また、お湯に口元、ぶくぶく沈んでいく。  

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