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「あっつい!」

 啓介が洗い終えて、きゅ、とシャワーを止めて。  濡れた髪を掻き上げながらオレを振り返った。 「入ってもええ?」 「……いーけど」 「雅己そっち。オレ、こっち側な」  啓介は笑いながら、オレと反対側に座った。  ほんとに広くて、ちょっと足を曲げれば、啓介には触れない。 「うちの風呂もこんだけ広かったらえーなー?」 「……うん」  ぶくぶく。  沈みながら、頷いていると。  啓介がちょっと息をつきながら笑って、オレを見つめた。 「……何か、あった?」  そう言われて、ちら、と啓介を見上げる。 「昼話したやろ。で、ラブホ来ることになった。で、来てる」 「……ん」 「雅己がラブホ来た事ないし、オレも、雅己と来た事にしたいし、って言うて、ここに来ることにして、一回、機嫌、直ったやんか」 「……ん」 「ラブホは、楽しいんやろ、興味津々やし、来たくなかったって感じはせえへんし」 「……うん」  頷きながらも、口元、ずっとぶくぶくしてると。  啓介が、ぷ、と笑って、自分の口元押さえてる。 「――――……ほんま可愛いなー、お前」  手が伸びてきて、顎に触れられ、顔を上げさせられる。 「……ちゃんと言うて? 何かあった?」 「――――……」  ……何かあった……と、いう程の事は無い気がする。  別に。何かあった訳じゃない。 「そんな、何も……」 「――――……雅己は、何を気にしてるん? 言うてみ?」  ぶくぶくぶく……。  また沈んだオレに、啓介はもうほんと、可笑しそうに笑ってる。 「何なん、ほんま」  ぐい、と腕を掴まれて、すぐ至近距離で、見下ろされる。  ぶに、と両頬を摘ままれた。 「昼別れてから、オレと会うまでに、何があった?」 「――――……何もないんだけど……ちょっと……気づいたの」 「ん。何に?」 「――――……てー……」 「ん?」 「…………てい……」 「てい? 何?」  こんな至近距離でも聞こえない位の、声でしか、言えない。  よく考えたらオレ、この言葉、発言した事、無いぞ。人生で。  よく口にしてた奴ら居たし、童貞捨てたとか騒いでた奴ら居たし、  よく巻き込まれて話してたけど。  そーいえば、オレは言った事なかった。  つかそもそもオレ、そういう話、聞くのは面白くて笑ってたけど、  自分から言った事、無いんだよな。 「――――……うぅ。無理」  言えない。俯いたオレに。 「はあああ???」  啓介の呆れたような、声。  でもすぐ、笑いながらのため息が聞こえて、手を離された。  啓介はさっきまでと同じように、オレとは反対側のバスタブによりかかる。 「――――……言いたくなったら、言えばええけど」  くす、と笑う。 「……啓介、何で、言えって言わないの」 「――――……雅己がそこまで言いにくそうなの、今まで無かったから。無理やり言わせんのも、悪いかなと思うて」 「――――……」  優しいけど。  ……そんな事言ってたら、オレ、一生言えないかもしれないけど。 「……何があったんかは、めっちゃ気になるけど」  そう言われて。  ……とりあえず。  頑張って口にしてみることにした。 「……ーてー」 「ん?」 「ドーテー……って」 「どーてー??」  啓介が目の前で繰り返して、ん? と首を傾げた。 「どーて…… ああ。童貞……?――――……」 「――――……っっ」  そんなキョトン顔、すんな、馬鹿!!!  初めて見る位キョトンとされて。  もう、顔というか、耳まで、あっつい!!!  うわーもう、言わなきゃ良かったーーーー!!!!    もう何も話したくない。  啓介と反対側を向いて、丸まった。

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