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「混乱」

「……なー、雅己?」  オレは、もう結構な長い事。  啓介に背を向けて、頭を抱えてる。  もう。  ……何でこんな話になったんだっけ。  何でオレが、啓介を。とか。そんなとんでもない話に。 「……雅己、こっち来な?」 「やだ」 「――――……」  啓介が、ふー、と笑みを含んだ、ため息。  ……だって。啓介が。変な事、言うから。  啓介が悪いんだもん……。 「雅己て。来いや」  腕を掴まれて引かれて。体の力を少し抜いたら、ぐい、と抱き締められて。  なんとなく。  オレは、黙ったまま、啓介の肩に、顎を乗せた。  少し啓介がオレの方を見たので、啓介の頬がオレの頭に触れる。  ……背中をポンポン、とされて、少しだけほっとする。 「――――……童貞って事が、嫌?」 「…………なんとなく」 「……まあ。なんとなく分かる。じゃあ……それ捨てるために、女の子と付き合いたいって、少しは思うん?」 「……思わないってば」 「――――……やっぱりオレは……勝手やけど……今のオレとお前の関係で、女とされんのは、許せないと思う」 「うん。……分かってる」 「オレと付き合う前にしてたら――――……それはもう、雅己の自由やし。何も問題、ないけど」 「……うん。分かってる」 「……せやけどそれでも――――……ちょっと妬くかも」 「ん?」 「雅己に触った事ある奴居るって思うたら、モヤモヤする」 「――――……啓介、あるじゃん」 「……オレがモヤモヤするて思うから。そういうんもあって、お前に、ごめんて、前言うた」 「――――……」  ……ああ。なるほど。  ――――……そういうのもあって、オレに謝ったのか。  まあでも。仕方ないって分かってても、オレも、モヤモヤはするから。  同じか……。  妙に納得していると、啓介がオレを少し離して、顔を見た。 「……んでもな?」 「うん」 「……オレと一生居るなら。……童貞捨てるのは、諦めてもらうか……」 「ん。…… もらうか?」  もらうか、何? 何か他に選択肢、あんの? 「オレで捨てるか。どっちかやけど」  …………っ。  またパニックになりかけるけど。啓介が、背中、とんとんしてくれてたから。ちょっと落ち着く。 「……啓介で、捨てんのは……絶対やだ」 「――――……んー。やっぱ、雅己は男と、そっちでは、欲情できひんか」 「……」  ……っっ。なんか。よく分かんないけど。  なんか違う! 「せやけど、目ぇつむれば出来るんやない? ええよ、オレが全部してやるし」  全然望んでないのに、そんなサービス要らないし!!!  わーん!! 「……ち、がうってば、ちがう、わー、もー、考えさせないで」  わーわー言い出したオレに、啓介が苦笑いしつつ、落ち着けやと、頬に触れてきた。 「別に嫌なら無理にさせたりせえへんて」  何か啓介は、クックッと笑ってるけど。 「……っっっそう、じゃなくて。別に啓介だと、嫌だとか、じゃなくて」 「――――……なくて?」  なくて。  何だ?  いや、もちろん、オレ、啓介にしようとした時に、それはちょっと、できるか分かんないっていうのもあるけど。嫌か嫌じゃないかで言ったら……嫌かも。だけど。  でも。別にそれは、男だから気持ち悪いとか、女の子がいいなあとか、そういうんじゃ……いや、捨てるなら、女の子が良いような気はするけど。  いやでもこれは啓介には言えない……いやいや、そうじゃなくて。  違う違う、だからオレは、別に今、女の子としたい訳じゃなくて。  啓介に、そんな事もしたくなくて。  だから、何??  ……全然分からなくなってきた。

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