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「純潔?」

 そういえば、昼食べたきり、めちゃくちゃ激しい運動をさせられて。  すっごい空腹だったことに、ラーメン屋に入ったら急に気づいた。 「ラーメン大盛で、チャーシューと味玉と、あと餃子と、チャーハン」 「待て待て、ちゃんと食えるんか?」  啓介が笑いながら聞いてくる。 「オレは、どこかの変態のせいで、めちゃくちゃ腹へってんの!」 「……どこの変態?」  笑いながら、すっとぼけてる、そこのお前だー!  と、心の中でツッコミながら、オレはまだメニューを見てる。 「雅己、チャーハン半分こする?」 「うん。いーよ。今、半チャーハンにしようかなと思ってた」 「食べれんのか、見てみたい気もするけど」  クスクス笑いながら啓介が、店員を呼ぶボタンを押した。  注文を終えてメニューを片付けると。 「帰って勉強できそう?」 「……するし。少しは」 「せやな。今日は暗記のはやめて、レポートにしよか」 「うん。そーする。覚えられる気、しない」  言うと、啓介は笑って頷く。 「なー、啓介」 「ん?」 「……啓介さ」 「うん」 「ほんっとに、逆でも、よかった?」 「逆? ――――……って、さっきの話か?」 「うん。そう」  啓介は、呆れたように、笑う。 「ラーメン屋で話すことやないと思うんやけど」 「だって、周り居ないし、音楽うるさいし、聞こえないかなーと思って」  二人きりでこういう話してると、すぐアヤシイ雰囲気になるし。いっそこういうとこで、聞かれないとこで話した方がいい気がするんだもんなー。  カウンターは結構埋まってるけど、テーブル席は、隣は空いてて、ちょうど端っこだったし。 「別に、オレはほんまに良かったけど」 「ほんとに?」 「何で聞くん?」 「だって、どう考えたって、嫌そうだなと思って」  そう言うと、啓介はちょっと真面目な顔をして、オレを見る。 「そりゃどっちかて言うたら、今の方がオレは好きやけど」 「――――……」 「でも、雅己がしたいて言うなら、譲歩できる位やで?」 「――――……ほんとに??」 「まあでもオレ、お前みたいに可愛くはないからなあ……お前が嫌なんやないの?と、ちょっと思うけど」 「……オレも別に、可愛くねーけど」  険しくなったオレの顔を見て、啓介は、「めっちゃ可愛えよ?」と笑う。  違う違う、こんな話がしたいんじゃない。  ……えーっと。何が聞きたかったんだっけ?? 「……せやからまあ……ええよ。一回くらい。試しても」 「――――……オレさっきも言ったけど」 「ん」 「それだけは、お前でも、無理。だから、安心して、絶対言わないから」  うん、と頷きながら、言ったら。  啓介が口元を手の甲で押さえながら、ふは、と吹き出した。 「――――……もーお前、ほんまに……おもろ……」  クックッと笑い続ける啓介。  ……だって、無理だもん。  オレが、啓介をなんて。普通に考えたって、絶対出来ないって分かるじゃん。もういい、そんなことするくらいなら一生、そのままで大丈夫。 「啓介と別れたら……捨てようかなー」  そう言ったら、啓介は、ふーん、とクスクス笑って。 「ほしたらオレは――――……雅己がそれ捨てないで守っていけるようにしよ」  そんな風に言われて、は?と険しい顔になってしまう。 「守ってもらいたいものじゃないんですけど」 「……いや、もーこーなったら、守るわ。雅己の純潔」 「じゅん…… って恥ずかしい言葉つかうなよ!! ていうか、オレ、今、全然、それじゃないかんね、お前のせいで」 「そおか?」 「そおだよっ もうなんかお前のせいで日々ただれて……はーやだやだ……」  もはや何の話がしたかったんだか、さっぱりわからないけど、そう言って嘆いていたら。 「ええやん。一緒にただれよ」  啓介が楽しそうに言ってから。 「ただれるっちゅー方が、恥ずかしくないん?」  クスクス笑われて、そういえばと、かあっと顔が熱くなると。 「ほんま、お前は、可愛え」  クスクス笑われて。  ――――……何と言うべきか迷ってる所に、救いのラーメンが現れた。 「すげーうまそー」  わーい、と食べ始めると、啓介が何やらオレの前で笑ってる。  まあ。  ……ちゃんと純潔……って、言うの、恥ずかしいけど。  純潔、守ってもらお。  なんて思いながら。  ラーメン、啜った。

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