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「昔から」

 皆と別れてきて、啓介と、マンションまでの道を歩く。 「すごい楽しかった」 「せやな。もう勉強のこと考えんでええしなー」 「うん。すっごい食ったー」 「確かにお前、めっちゃ食うてた」  そう言いながら、啓介がクスクス笑う。 「甘いのも食うたやろ」 「うん。なんかもう、生クリームで気持ちわるい」 「太るんやない?」 「今日だけ」 「とか言いつつ、いつも食うてるし。オレと一緒に筋トレする?」 「んー……ちょっとなら付き合うー」 「ほんまはジョギングするんがええと思うけど」  啓介の言葉に、ちら、と見上げる。 「え、オレ、そんなに太ってる?」  そう言うと、啓介はぷ、と笑った。 「太ってへんわ。むしろ、細い……って、そういうのって、自分で分かるやろ」 「……うーん、太ってはないかもだけど、啓介みたいに、ムキムキしてないし。鍛えられてないっていうかー……」 「そう? 筋肉も割とついとるし。綺麗やけどな」 「綺麗言うな」 「――――……そういやプールの時とか、めっちゃ綺麗やって思って、まともに見れんかったの、思い出した……」 「ええっそうなの?――――……きもいー、啓介ー」 「はあ? キモイとか言うなや」 「オレは、そんな目で見られてるのも知らずに、プール楽しんでたのにー」 「せやからあんまり見てないて」 「だって、そういう風に見ちゃうからでしょ」  むむむ。  ちょっと口を噤んでから。 「……ていうか、啓介って、ほんとに、オレをそう言う意味で、好きだったんだな……」 「せやけど。ちゅーか、何度話せば実感してくれんの」  クスクス笑って、啓介がオレをちら、と見下ろす。  きもいは、もちろん冗談だったんだけど……。  んー。なんか……。  ちょっと、少し、切ないような、申し訳ないような、変な気持ちになってくる。 「なんかさあ、啓介……」 「ん?」 「……辛かった??」 「――――……」  何となく、聞いたら、啓介がオレを見て、固まってる。 「……何が、や?」 「――――……んー。なんか。……オレが全然気づかなくてさ。1人で、そういうの思ってたの……」 「――――……辛かった……どうやろ。高校ん時は、否定して彼女作ったりしとったし……大学も新しい出逢いがあればきっと、とか思うてたし」 「――――……」 「……お前と友達でいるのも、バスケ一緒にやるんも、楽しかったし。……別に、辛かった訳やない、かな」 「――――……」  啓介が少し笑うので。  そっか、とオレは、頷いた。  不意に伸びてきた手に、頭をめちゃくちゃ撫でられる。 「わー、何すんの、髪ぐしゃぐしゃ――――……」  もー、何なの、と啓介を見上げると。  なんかめちゃくちゃ、笑顔。 「好きやで、雅己」  最後にまたよしよしされて、オレは、固まるしかない。 「早よ、帰ろ」  なんだかご機嫌の啓介が少し先を歩き始める。 「――――……っ」  もー。はずいな、ほんとに。もう。  そんな笑顔で、好きやでとか、言うな。もう。  思いながらも。足早に、啓介に追いついて、また隣で、歩き始めた。  今日は、月が、すごく綺麗な気がする。

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