165 / 233

「ピンクの空」4

 今日は午前中は、すっごくゆっくりした。  本を読んで。テレビを何となくつけて。  いつもなら啓介が淹れてくれるコーヒーを自分で淹れて。  よく考えたら、この家に引っ越してきて、長い時間一人になるのは、初めてだったから、何だか不思議な感じがした。  この家で、初めて、啓介が居ない。  ちょっと変なの。  なんて思いながらも、まだ朝別れて、数時間だし、快適に過ごしていた。  昼食後、啓介から電話がかかってきた。 「元気にしとる?」「昼何食べた?」「外出た?暑いから気ぃつけろや?」「午前中何しとったの?」「戸締りちゃんとしとる?」  ……って、何聞かれてんの。  オレは子供か? て言いたくなるような心配をされ。  苦笑いで全部答えた。  これから親戚で集まって法事らしい。  啓介のお母さんが、大阪に帰る事を自分のママ友達に言い、そこから、その友達の子に伝わって、啓介が帰る事を知った友達らが集まろうと言ってきたらしく、夜はご飯を食べに行ってからおばあちゃんの家に行く事になったらしい。  うんうん、いいんじゃない?  そう答えて、オレ先寝てるから夜電話しなくて良いよ、と伝えた。  友達と楽しんでくればいいと思ったし。  別に何の心配もしてないし。  啓介も、電話できたらするけど、出来なかったら、朝するから、と言ってた。  まだ十四時か〜。  啓介が居ると、瞬く間に過ぎていく時間が、一人だと、本当にゆっくり過ぎていくんだなあと少し不思議。同じ時間の流れだとは、思えない。  まあこれはこれで、たまにはいいかも。  ソファに転がって、いつもはゆっくり読めない本を読み始めた。  しばらくは集中して本を読んでいたのだけれど、段々眠くなってきて、うとうとして――――……。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「うわ……すっげー……」  本を読みながら眠ってしまって、目覚めた途端。  部屋に広がっている光景に、思わずそう漏らした。  時計を見ると、もうすぐ十八時半。  あれ。なんかものすごいがっつり寝てたかも。十六時位から寝ちゃったかな。  冬ならば真っ暗なこの時間も、夏の今は、まだ明るい。   が。  ただ、明るいだけならばいつもの事なのだけど。  ――――……今日の明るさは 特別、だった。  ソファから立ち上がって、窓を開けるとベランダに出た。  一面、ピンク色。  ――――……ピンク色の沈みかけた太陽と、ピンク色の空と雲。 「すっげーキレイ……」  その光を受けて、部屋までが、ピンク色に染まっていた。 「―――……啓介……見てっかなぁ……」  しばらく見つめていたオレは、自分から零れた言葉に気付いて、思わず苦笑い。  大阪と東京と、天気が一緒かどうかも分からないのに。  ――――……でも、この空、あいつも見れてたら、いいなあ。  なんて思った。

ともだちにシェアしよう!