166 / 245
「ピンクの空」5
大学入学と共に始めた一人暮らしは楽しかった。
遅くまで起きてても、いつまで寝てても、好きに何をしてても、全部自分の自由って、最高だと思ってた。それが啓介に、この家に泊まらされるようになって……で、引っ越しまでしてしまって、結局、一人じゃなくなって。
啓介との暮らしは楽しいから良いのだけど、なんかほんとに自由だった一人暮らしを、ぼーっと、楽しかったな、とふと思い出したりする事はあった。
ほとにずーーーっと啓介と一緒だから、
何となく、一人の空間が欲しくなる事があって。
けれどその空間は、啓介に、何となくでも嫌な想いをさせてまで得たいほど、欲しいものではなかったし、
何だかんだ構ってくる啓介を、嫌ではなかったし。
――――……オレと居る時だけ見せる啓介の表情も声も。好き、だし。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、啓介と離れた、自分の時間が欲しくなっていたので、束の間の一人を満喫しようかなと思いながら、啓介を送り出した。
啓介は電話で寂しがってたけど、まああいつも久しぶりの大阪で楽しいだろうし。 オレも、特に寂しいとは、感じなかった。
二、三泊してきてもいいけどなーなんて、啓介が聞いたら 喚きだしそうな事を考えている自分もちょっぴり居た気がする。
だから、ほんとにちっとも寂しいなんて、思ってなかった。
けれど。
「……こんなにピンクの空なんて……滅多にねーのになー」
――――……大阪で、同じようにこの空が見えているのかな?
そんな風に、ふと考えたら。
――――……啓介が居なくなって初めて。
啓介、ここに居てほしいなと、思った。
ここに啓介が居たならきっと。
啓介がこの空を見つけて。そしてオレを呼んで。
一緒に並んで、この空を、見たんだろうなんて思って。
――――……ふ、と苦笑いが浮かんだ。
キレイなものを見て、啓介に、一緒に居てほしいと思うとか。
一緒に、見たかったと、思うとか。
ちょっと恥ずかしい。
「――――……」
スマホを構えて、ピンク色の夕陽を写真に収める。
写真も、キレイではあるけど――――……。
やっぱり直接見た方が断然キレイ。
やっぱ、一緒に見たかったな……。
「……オレ、おかしーかな……」
また、苦笑い。
しばらくその空を眺めて、ゆっくりと暗くなってから。
ベランダから部屋に戻った。
「……シャワー浴びてこよ」
スマホをテーブルに置きながら、何となく呟いた。
何となく、冷たいシャワーを浴びたくて。
オレは頭をポリポリと掻きながら、バスルームへと向かった。
ともだちにシェアしよう!